8月12日
兄貴は、僕のうちの隣に住んでいる。
でも、兄貴のうちに行く前に、まず湖に行くのは、僕も湖が好きだから、なのかもしれない。
だから、今日も湖に行ってみる。
「あら、遅かったのね。」と、お姉ちゃんが言う。
「ちょっと寝坊しちゃった。」と、僕が答える。
今日は、兄貴は、友達のところに宿題をしにいっているらしい。
「鬼の英語教師」(自分で名乗っているらしい)の「地獄のプリント」(素敵なネーミングと思っているらしい)が3枚あり、
友達二人と1枚ずつやって写しあう予定らしい。
「珍しいね。宿題は無いって、いつも遊んでるのにね。」
「そうなの?私のころは、数学教諭が宿題好きだったから、ほとんど毎日やってたのに。」
お姉ちゃんはおかしそうに言う。
「お姉ちゃん・・・」僕は、呼びかけてみる。
「お祭りに参加しなかったら、神隠しにあうんだよ。知ってた?」
兄貴が言ったことを、お姉ちゃんはどう思っているだろうか。
「そうねぇ・・・そうなるかもね。」
お姉ちゃんの返事は意外とそっけない。
「お姉ちゃんは信じてる?」と、僕はさらに聞いてみる。
「そうねぇ・・・私は、小さいころに一度、風邪をひいてお祭りに行かなかったことがあるの。」
それで、兄貴と二人で留守番をしていたらしい。
「その次の日にね、私が森の奥で迷子になったの。」
それが兄貴が神隠しを信じている理由らしい。
兄貴にとって、お姉ちゃんはとても大切な存在だった。
だから、そんなことが(たとえ偶然だとしても)起きれば、兄貴は神隠しを信じてしまうだろう。
小さなころにそれが起きたのならば特に印象に残ったに違いない。
「それでね、」と、お姉ちゃんが続ける。
結局、兄貴がお姉ちゃんを見つけてくれたそうだ。
「だからね、私はお礼に、次の日にどんぐりを拾ってペンダントを作ってあげたんだ。」
兄貴は、今でもそれを大切にしているらしい。
「うちに来るんでしょ?もう残り少ないし・・・」おねえちゃんが言ってくれた。
「うん。兄貴を待っててもいい?」
「かまわないよ。でも、帰るのはいつになるかわからないよ。」
僕は、お姉ちゃんと一緒に帰った。
神隠しの謎もわかって、ちょっとすっきりした。
早く兄貴が帰ってこないかな・・・
そう思って、僕は空を見上げた。
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