6月になって、雨が続いている。
だから境内の掃除がままならない。

 ため息をつきながら出入り口から外をながめる。
すると、賽銭箱の隣に座り込んで泣いている少女がいた。
わけありだな、直感的にわかった。

 後ろからやさしく声をかけてみる。
「どうしたの?」
「わたし…もうお家に帰れないの…」
泣きながら答える。
少女はどうやら自分のことがわかっているらしい。

「とにかく、中に入んなよ。そこにいたら濡れちゃうよ。」
ぼくは少女を中に入れた。
見たところ6〜7歳くらいだ。
冷蔵庫から冷たいお茶を出す。

 何を話せばいいか迷っていると後ろから女神様が来た。
「誰か来たの?」
「えぇ。女の子が出入り口で泣いていましたので中に入れました。」
「そう。」
少女はまだ泣いている。
「私…お家に帰れなくなったの。
まだやりたいことがたくさんあったのに…」
そう言っていっそう泣き出した。

 女神様は、やさしく少女の頭をなでて言った。
「帰れないのなら・・・しばらくここにいていいよ。」
「うん・・・ありがと・・・」
少女は答える。
少し安心したようだ。

 いろいろ話をしたが、帰れないのでここで生活することになった。
お互いに自己紹介をする。
少女は、名前を美子といった。
「素敵な名前だね。
ぼくはコマ、狛犬だからコマって言うんだ。
それから、こちらはここの女神様。
二人とも、人間の格好で生活しているんだよ。」
「よろしくね、コマお兄ちゃん。」
そして、ようやく美子は笑った。

こうしてぼくたち3人の生活が始まった。


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