今日はみんなで美術館に来ている。
電車で20分くらいのところにある、こじんまりとした美術館だ。
「ここにはね、せつなくなったらなんとなく来ていたの。」
女神様が言う。
「何か、せつなくなることがあったんですか?」
ぼくは、ちょっと心配になって聞いた。
「ううん、久しぶりに来たかっただけ。」
女神様は笑いながら言う。
「私ね、美術館って初めて。」
美子は嬉しそうに言う。
「きれいな絵がいっぱいあるんだよね。」
美子は歩き方がスキップのようになっていた。

 1階は壷とか石像とかが並んでいた。
「一応言っとくけど、触っちゃだめよ。」
「えぇ、わかっています。」
「はぁい。」
女神様は一つ一つについている説明をを丁寧に読んでいた。
「ぼく、壷ってよくわかんないなぁ・・・」
「私もよくわからない。」
ぼくは女神様の邪魔にならないよう、少し離れて美子としゃべっていた。
「実はね、私も壷とか彫刻はよくわからないのよ。」
女神様はおかしそうに言う。
「でも、せっかく来たんだから見ないと損かな、って。」
そして一通り説明を読んでしまった女神様は言った。
「さ、上に行きましょう。」

 2階は1階よりも少し人が多かった。
風景画が多く展示してあった。
「この、夕焼けの絵が素敵ですね。」
「そうね、それもきれいね。」
女神様は奥を見ながら言った。
「でも、私のお気に入りは一番奥にあるあの絵よ。」
「じゃぁ、それを早く見に行こう。」
走り出そうとする美子を、女神様はつかんでとめた。
「こういうところでは、走っちゃだめよ。それに、順番に見なくちゃ。」
女神様のお気に入りの絵まで、もう少しだ。

「この絵・・・すごくきれい・・・」
美子は感動しているようだ。
ぼくも言葉が出ない。
「素敵でしょう?」
女神様は言う。
「どこかの山から、ふもとを見下ろしているのね。」
ふもとは小さな家が数件あり、森が広がり、田んぼがあった。
空の青さに大地の緑が映えている。
「こういう景色、本物を見たいなぁ・・・」
美子はぽつりと言った。


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