神社に帰ると、境内に見覚えのあるテントが張ってあった。
「あぁ、兄者、出かけていたみたいだな。お帰り。」
「ん・・・あぁ・・・」
「あら、護くん、お帰りなさい。」
「護お兄ちゃん、お帰り。」
放浪の旅に出ている弟にお帰りと言われて、お帰りというべきかただいまというべきか迷っていたら二人に先を越された。
お帰りでいいのか・・・
「ところで、どこへ行ってらっしゃったんですか?」
「ちょっと美術館にね。」
「すごくきれいな絵があったんだよ、絵はがきも買っちゃった。」
気がつくとどんどん話が進んでいる。
「今度、オレも見かけたら寄ってみようかな。」
弟はそう話をまとめるのだった。

「あっ、そうだ。」
ぼくはつい大きな声を出してしまう。
「どうしたんだ、兄者、大きな声を出して。
弟だけでなく、女神様も美子もびっくりした顔をしてこちらを見ていた。
「しばらくうちにいるだろ?テント貸して。」
「どうしたの、コマ?家出でもするつもり?」
女神様がさらにびっくりした顔をしている。
「いや、さっきの絵の本物を見たいって言ってたからせっかくテントもあるし探してこようかなと・・・」
「待て、オレはまだ貸すとは言ってないぞ。」
弟はいきなり否定する。
「それは今から交渉する。」
「とにかく、中に入りましょう。」
女神様は言った。

 ぼくは4人分、冷たい麦茶とお菓子を少々準備した。
「で、コマ、本当に探しに行きたいの?」
女神様はいきなり本題に切り込む。
「えぇ、せっかくだから・・・」
「もう、どうせっかくなのよ?」
女神様は困った顔をしている。
「で、次の問題として、護くん、テントを貸してくれるの?」
「単純に貸すだけなら構いませんが、2〜3日でまた旅に出るつもりなのですが・・・」
「じゃ、2〜3日で見つけてくるよ。」
ぼくは言った。
「ねぇ、コマ兄、本当にどこかに行くの?」
さっきから複雑な顔をしていた美子がようやく口を開いた。
「うん、さっきの絵に書いてある場所を探しに行くんだよ。」
「でも、コマ兄がいないのはさみしい。」
美子は悲しそうに言う。
「ちょっと待て、まだ貸すとは一言も言ってないぞ。」
「そうよ、私もいいとは言っていない。」
「駄目ですか?」
ぼくは言ってみた。
女神様は少し考えてから言った。
「まぁ・・・これも一つの勉強かしらねぇ・・・」
「じゃぁ、行ってもいいんですか?」
「護くんがテントを貸してくれたらね。でも、3日経って見つからなかったらひと先ず帰ってくるのよ。」
女神様は条件を付けて許可してくれた。
「じゃぁ、貸して。」
「・・・貸してもかまわないが・・・テント張れるのか?」
「あ・・・」
大事な問題を忘れていた。
「しょうがねぇなぁ・・・」
弟は大げさに首を振ってみせる。
「オレもついていこう。そしたら3日の期限はなくなる。」
「えっ!!いいの?ありがとう。」
美子は悲しそうな顔をしたが、すぐに笑った。
「じゃぁ、あの絵のきれいな景色、見つけてきてね。」
いろいろ話して、出発は明日の朝、弟と一緒に、ということになった。
その夜、布団の中で明日からの計画を考えながら、ぼくは眠った。


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