女神様が風邪で寝込んだ。
ぼくたちは、人間の格好をして生きているので、こういうことはたまにあるらしい。
「大丈夫ですか?」
女神様の顔は少し赤くなっている。
今、熱を測っているところだ。
「ううん・・・熱は少し下がったけど、まだきついな・・・」
「女神様、お茶持ってきたよ。」
美子が温かいお茶を持ってくる。
「ありがとう。」
女神様は市販の薬をお茶で飲む。
「なんか、食べたいものとかありますか?」
ぼくは買い物の前に聞いてみる。
今日の家事は何から何までぼくがやっている。
「ありがとう。デザートにりんごをつけてくれたらうれしいな。」
「わかりました。」
ぼくは買い物リストにりんごを書き込む。

「コマ兄、私も買い物に一緒に行きたい。」
買い物に行こうとしていると、美子が言った。
「ん・・・珍しいね。」
「女神様に、お見舞いの花を買いたいの。」
「あぁ、なるほどね。」
ぼくたちの話を聞いていた女神様が口を挟んだ。
「美子は、新しくできたあのお花屋さんに行ってみたいんだよね。」
そしてふふふ、と笑う。
「えへへ・・・ばれちゃった。」
美子は照れくさそうに言う。

 ぼくたちは先にお花屋さんに寄った。
店の中は明るく、きれいに掃除がしてあった。
「雰囲気のいい店だね。」
ぼくは見回しながら言う。
「そうだね、すごくいいね。」
美子はとてもうれしそうだ。
「いらっしゃいませ。」
店の奥から声がした。
ぼくも美子もキョロキョロしていたので、店員さんからさらに声をかけられる。
「何かお探しですか?」
「えっと・・・じゃぁ、ひまわりか彼岸花を・・・」
ぼくは好きな花の名前を答える。
「え!?この時期にですか?」
店員さんは困った顔をしていた。
名札には「杏」と書かれている。

 杏さんと美子はずいぶん仲良くなった。
好きな花の話をしている。
ぼくはその間、いろいろな花を見て回っていた。
道には咲いていないような、珍しい花ばかりだった。
「この花もきれいだね。」
「美子ちゃんはピンク色のお花が好きね。」
杏さんも美子もニコニコしている。
ぼくはそれを見てここに来てよかったな、と思った。

 お見舞いのお花を買って最後に杏さんに挨拶をする。
「妹が話し込んでしまってすみません。
ご迷惑じゃなかったですか?」
「いえいえ、私は幼稚園の先生になろうと思っているので子どもと話すのは好きなんですよ。
だから、また美子ちゃんを連れてきてくださいね。」
「ありがとうございます。また来ますね。」
ぼくの手には、美子の選んだピンク色の花があった。

 家に帰ると、女神様がすやすやと眠っていた。
ぼくはつい、女神様の寝顔に見入ってしまう。
「コマ兄、お花屋さん楽しかったね。杏お姉さんもかわいかったね。
また一緒に行こうね。」
美子に声をかけられてはっとする。

 ぼくは台所でりんごをむいている。
美子は静かに絵本を読んでいる。
そして、女神様はまだ眠っている。
女神様が目を覚ましたら晩御飯だ。



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