「ねぇ、コマ兄、ここに来た理由の続き、聞かせてよ。」
あれから2、3日。
美子は今日思い出したらしい。
「あぁ・・・そうだったね。
神様と、ぼくと弟が別れたところまで話したんだっけね。」
ぼくは、行くあてもなくふらふらと歩いていた。
風がだいぶ冷たい。
ふと、小さな脇道に気がついた。
なんとなくそっちに行ってみる。
まわりは草や木がたくさん生えていた。
誰も手入れをしていないな、そう思いながら少し先に行く。
すると、石段があった。
なんとなく行ってみたくなった。
階段の下からは赤い鳥居が見える。
階段を登ると、30代後半といった感じの、品の良い女性が境内の掃除をしていた。。
「あら、こんにちは。」
やさしい目でこちらを見ている。
しかし、ぼくが見えるということは普通ではない。
「えっと…」
じっとこっちを見ている。
不思議な感じだ。
恐怖感も威圧感もない。
それどころかすごくやさしい。
しかし逃げられない。
逃げてはいけない。
本能的に悟った。
少し考えてなんとなく向こうのことがわかった。
「あなたはここの…」
「多分、あなたの予想通り。ここにまつられている者よ。」
「ぼくは…狛犬です…」
自分のことも伝える。
「そう、狛犬なんだ。何かあったんじゃない?」
とても心配をかけているようだ。
「いえ…え…?
そんな風に見えました?」
「だって、狛犬が神社を離れるって普通じゃないでしょ?」
すごくやさしい笑顔だ。
全部話そう、そう思った。
全部話した。
いつの間にか涙が流れていた。
「今まで・・・泣いたことなんてなかったのにな・・・」
ふとつぶやく。
「あっ、掃除!!手伝います。」
照れ隠しに言う。
ふふふ、と笑って、ここの神様は言った。
「ありがとう。」
そして、ほうきを貸してくれた。
「それが、女神様との出会いだったんだね。」
美子が言う。
「あぁ、そうだよ。掃除をしながら話をしてね、
よかったら、明日からもここの手伝いをしてほしいって言われてたんだよ。」
これがここに来るまでの経緯だった。
そこまで話して、ふと美子に言った。
「人間の感情って、いまいち表現できない部分があってね・・・
今、ここに来てよかった、ってすごく思うんだ。
なんて言えばいいのかな・・・?」
「それはね・・・幸せ、って言うんだよ、お兄ちゃん」
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