ぼくは本を読んでいた。
竹取物語という本だ。
「かぐや姫ね。」
女神様が言う。
「子ども向けならかぐや姫、本来の名前は竹取物語っていうのよ。」
そう教えてくれるのだった。

「それにしても」
女神様はさらに言う。
「最近、遅くまで起きているのね。」
「タカシくんがね、」
ぼくは答える。
「タカシくんが、人間は9時に寝て6時に起きるなんて生活しないもんだよ、って教えてくれたんです。」
「まぁ。」
女神様は驚いた顔をする。
「昔はそんな生活だったのに、ここ数十年で変わったのね。」
女神様は、ふと遠い眼をした。

「ところで、その本おもしろかった?」
「えぇ、でも、かぐや姫ってちょっと皮肉っぽいですね。」
女神様はくすっと笑って言った。
「歌で返事をするから皮肉っぽく聞こえるのよ、きっと。」
女神様の解釈はいつだって好意的だ。
「それに、ふった相手に情けをかけて未練たらたらになられても困るでしょう?」
確かにその通りだと思う。
「女神様ってすごいですね。」
「あなたが物事の表面しか見ていないだけよ。」

「あぁ、そうだ。」
女神様はふと思い出したように言った。
「かぐや姫が皮肉っぽいなんて、間違っても美子に言ったらだめよ。」
「えぇ?どうしてですか?」
「かぐや姫って女の子の憧れよ。子どもの夢を壊しちゃダメ。」
あぁ、そうか、と思った。
女神様はいつだってやさしい。
大事なものを大事にしようと常に思っているのだ。
女神様の考えに触れるたび、ぼくの考えが、気持ちが変わっていく。
「ねぇ、女神様」
「どうしたの、コマ?」
「えっと・・・あの・・・ありがとうございます。」
照れくさかったので、ぼくはそれだけ言うと自分の布団にもぐりこんだ。


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