お花見で疲れたのか、いつもより少し早く美子は眠った。
ぼくはなぜか眠れない。
ぼくに付き合って、女神様も読書をしてくれている。
ぱたん、と本を閉じて、女神様が言った。
「コマ、まだ眠くない?」
「えぇ、なんとなく・・・」
「弟くんが旅に出て、まだ少し淋しいのかな?」
「えぇ・・・多分・・・」
最後の言葉は少し力なかったような気がする。
女神様は少し考えて、それから口を開いた。
「ねぇ、いまから少し、夜桜を見ようか。」
ぼくたちは美子を起こさないように静かに外に出た。
さっき片付けたばかりのシートをそっと広げる。
「夜桜も、きれいよねぇ。」
「えぇ、とても。」
ぼくは徳利に持ってきた日本酒を、女神様の杯に注いだ。
「ありがと。じゃ、コマにもね。」
そういうと、女神様はぼくにお酒を注いでくれた。
「ありがとうございます。あ、美味しい。」
「えぇ。日本酒はいいものを飲むことにしてるからね。大事なときに、時々、ね。」
ぼくは、そっと女神様に寄りかかった。
ぼくたちは、あまりしゃべらなかった。
ただただ、静かにお酒を飲んだ。
「もうすぐ、満月ね。」
女神様が空を見上げて言う。
「えぇ、そうですね。灯りも必要ないくらい明るいですね。」
「来年は美子も一緒に夜桜を見ようね。」
「はい、そうしましょう。」
ぼくたちは、お酒も手伝ってすごくいい気分だ。
今から来年が楽しみになる。
ぼくたちは、来年の花見でしたいことをいろいろ話した。
「さぁ、そろそろ寝ようか。」
女神様が言った。
空を見上げると、月がだいぶ傾いている。
「そうですね、ずいぶん遅くなったみたいですし・・・」
「もう眠れそう?」
「えぇ、おかげさまで。」
弟が遠くに離れても、ぼくには女神様と美子がいる。
ぼくは安心することができた。
戻る