「ここはオレのテリトリーだぞ。」
飼い主に引かれた犬が、神社の下でマーキングをしながら言った。
「あ、そ。別に神社の中に入らなければ文句は言わないよ。」
ぼくは答えた。
飼い主さんは不審な顔をしている。
「ちょっとおいで。」
ぼくは後ろから女神様に引きずられた。
「痛い痛い・・・痛いです。どうしたんですか?」
ぼくは涙目で聞く。
「人間は動物とはしゃべれないのよ。変な人に見られるよ。」
それであわてて引っ張ってきたというのだ。
「わかりました・・・気をつけます。」
ぼくは、そう返事をするしかなかった。

「こんにちは。ここでお祈りしてもいいですか?」
境内を掃除していると、屋根から声が聞こえた。
見ると、白くて小さな小鳥がこちらを見ている。
「えっと・・・」
動物とは話してはいけない、と女神様に言われたばかりだ。
ぼくは言葉に詰まってしまう。
「ぼくの友達が病気なんです。お祈りしてもいいですか?」
小鳥はさみしそうな顔をした。
「えぇ、どうぞ。」
ぼくは思わず答えた。
「ありがとう。」
小鳥さんはうれしそうに答え、賽銭箱に止まった。
そして、目を瞑ってしばらくじっとしていた。
思いのほか、長い時間・・・。

「ありがとうございました。」
小鳥さんは満足した顔でいった。
「早く友達の病気が治るといいね。」
ぼくは答えた。
「ありがとうございます。ぼく、そろそろ行かなきゃ。」
小鳥さんは言った。
「あ・・・ちょっと待って。」
ぼくは神社から、病気に効くお守りを持ってきた。
「これを、お友達に・・・」
ぼくは、小鳥さんの首にお守りをかけた。
小鳥さんは微笑んで言った。
「ありがとうございます、やさしいですね。」
そして羽を大きく広げ、飛んで行くのだった。

 掃除が終わって神社の中に入ると、女神様がこちらをにこにこしながら見ていた。
「コマって、やさしいのね。」
「え?」
「さっきの小鳥さんとのこと、見てたよ。」
やばい、と思った。
動物と話すな、といわれたばかりなのに・・・
「ああいうやさしさは好きだな。」
女神様はそれだけ言うと、後はにこにこしているだけだった。


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