温泉に行きたい、と美子が言い出したのは4月のはじめのころだった。
いつも一緒に遊んでいる友達が春休みに一泊二日で行って来たそうだ。
「このお土産、すごく美味しい!!ぼくも温泉に行きたい!!」
ぼくは美子に味方した。
「うん・・・行きたい!!」
美子ももう一度言う。
「少し考えさせて。すぐには決められないことだから。」
というのが女神様の答えだった。

 ぼくは、昼にちょっとタカシくんの家に行ってみた。
タカシくんは今日暇だといっていたし、ぼくも仕事が早く終わったのだ。
「ふぅん・・・温泉かぁ・・・」
タカシくんは言う。
「行ってみたいんだよね。でもどうなるか。」
「そういえば、どこを掘っても温泉が出る、って話は聞いたことがあるなぁ・・・」
「え?本当?」
「そんな話を聞いたことがあるだけで、本当かどうかはわからないよ。」
「・・・物は試しだな。素敵な情報ありがとう。」
タカシくんはさらに言った。
「温泉出たら、俺も呼んでくれよ。」
「もちろん。」
ぼくは言った。

 家に帰ると、倉庫から大きなスコップを持ち出す。
そして、神社の裏に穴を掘り出す。
腰の深さくらいまで掘ると、水が出てきた。
触っても熱くない。
これはただの水だ。
「もう少し掘るかな・・・」
そういうと、そこへ女神様がやってきた。
「コマ!?いったい何をしてるの?」
すごく驚いているようだった。

 ぼくはすぐに穴を埋めさせられ、中に入れられ正座させられた。
全部説明することになった。
「いや・・・温泉が・・・出るかなと思って・・・」
「そんなに簡単に出るわけないし、出すには機械が要るし、
それ以上に大きな穴を掘るなら一言言いなさい。」
そんな感じで説教が始まった。
そして、最後に聞かれた。
「そんなに温泉に行きたかったの?」
これは、しかるでもなく、怒るでもなく悲しそうな顔で聞かれた。
「ぼくはいいんですけど・・・美子を連れて行ってあげたくて・・・」
正直なところ、温泉よりお土産のお菓子の方に興味があった。
「そう・・・コマはやさしいんだ・・・」
それ以上は追求されなかった。

 夜、寝る準備をしていた。
美子はすでに寝ている。
女神様は寝る準備が終わってぼくに少し話したい、といった。
「どうしたんですか?」
「温泉・・・入れる?」
女神様は、温泉に行くことよりも、ぼくの行動が不安だった、と話した。
「今日もね、美子のためっていうのはわかったけど、いきなり穴を掘ったら困るのよ。」
ぼくはまだ人間としての生活に慣れていない部分も多い。
だからまわりから見たら非常識に見えることも多いらしい。
「えっと・・・気をつけます。」
ぼくはそういった。
「多分ね、美子は温泉に行きたいんじゃなくて、お泊りで旅行に行きたいんじゃないのかな。
それから、コマのことはもう少し、様子を見てからいけるかどうか判断しましょう。」
と、女神様が結論を出すのだった


戻る