7月のある暑い日、ぼくたち3人は海に来ていた。
「平和ですねぇ」
背伸びをしながら言った。
「そうねぇ。気持ちがいいね。」
女神様が遠くを見ながら言う。
美子は海辺で山を作って遊んでいる。
ぼくはなんとなく海の方へ歩く。
「コマ兄、山ができたよ」
美子は嬉しそうに言う。
「すごく大きいね。」
ぼくは答える。
そしてそっと手を頭にのせる。
いつもと変わらない、普通の日だった。
その瞬間までは…
空が一瞬で黒い、分厚い雲に覆われる。
海の向こうからまがまがしい「何か」が現れる。
どす黒く、禍々しいその姿は魔人と呼ぶにふさわしかった。
「あれは!?」
よくないものだと言うことは直感的にわかる。
女神様が慌ててこちらに来る。
「逃げましょう。一度戻って周りと協力体制を作ります。」
確かに「それ」から感じる邪念は凄まじい。
「ぼくがここで…足止めをします」
「ダメよ、危険すぎる。一緒に逃げるのよ。」
女神様は言う。
しかし、女神様にもわかっていた。
上陸を許せば大変なことになる、と言うことが。
「今まで…ありがとうございました」
ぼくは「それ」の方を見て思わず息を呑む。
おそらく、まともに戦っても勝ち目はないだろう。
「やだよ…一緒に逃げよう?」
美子はぼくの手を握った。
ぼくは美子の手をしっかり握りしめ、ゆっくりと、丁寧に頭をなでる。
そして笑顔を作って言った。
「美子…女神様を守れ」
そしてぼくは「それ」の方に向かった。
「これが予想される世界最終戦争の全貌です」
ぼくは自信たっぷりに言った。
女神様はたまらないといった感じで吹き出す。
「そんなこと絶対起きないって」
すごくおかしそうだ。
美子も笑っている。
「それはないと思うよ」
「大体、はじまる寸前なのに全貌って・・・」
突っ込みどころも満載みたいだ。
「リクエストしたら、続きを考える?」
「まぁ・・・そのつもりですけど・・・」
一応続きは考えてはいる。
発表する機会に恵まれるとは限らないのだが。
女神様と美子と、夏に流行った世界最終戦争について話していた。
ぼくは神と悪魔の戦いだと思ったのだが、二人は核ミサイル説をとっている。
「私たちもバカじゃないって」
「今、核ミサイルって結構問題になってるみたいだよ」
「むぅ…」
決定的な証拠が無いので、言い返すことはできなかった。
最終戦争の話や、今年あったことなどいろいろ話していた。
「女神様にもコマ兄にも、会えてよかったよ。」
美子が自分の感想をまとめる。
「ぼくも、ここに来てちょうど1年過ぎたくらいだけど、生まれてきて一番楽しい年だったな。」
「私も、二人と生活を始めて、毎日がすごく楽しいよ。」
それぞれ、自分の感想を述べたが、内容は驚くほど似ていた。
いつの間にか美子はテーブルに突っ伏して寝てしまった。
女神様は少しのお酒でほんのり酔って上機嫌だ。
ストーブの上で静かにお湯が沸いている。
テレビからは今年の流行りの曲が流れている。
今年、最後の夜だった。
戻る