美子は美子のやりたいことをすればいい。
ぼくはそれを応援すればいい。
美子がいなくなるのはすごく悲しい。
でも、美子のやりたいことを応援することが一番美子のためになることだ。
ぼくは美子をすごく大事にしている。
それは女神様公認だ。
だから、美子にとって一番いい選択ができるようにしたい。
ただ、それをいつ伝えるか、だ。
伝えなければならない。
でも伝えられない。
伝えたら…

 結局、そのまま冬を迎え、春に近くなる。
その間、誰も触れない話題ではあった。
しかし、三人とも意識はしていた。
女神様はぼくがどうするか確実にわかっていたようだ。
でも、促さなかった。
本当は、女神様も美子と別れるのがつらいから。
そして、ぼくのことを信じてくれているから。

 三人で何となくテレビを見ていて、ふと思った。
「最近、ランドセルの宣伝が多いですね」
「入学シーズンだからねぇ」
入学シーズン…その言葉を聞いて、美子はどう思うだろう…
辛いけど言わなければいけない。
きっと今がその時だ。
心臓が早くなり、すごく苦しい。
でも言わなければいけない。
「美子…」
慎重に言葉を選ぶ。
ただならぬ雰囲気を美子は感じたようだ。
「何?」
こわばった顔で聞き返してくる。
女神様も悟ったらしく、真剣な顔でぼくたちを見ている。
「その…やりたいことがあったら…ぼくも応援するから…」
美子はしばらく考えていた。
「えっと…今は特に…」
「いや…行きたいんでしょ、学校」
美子は固まった。
うれしいはずなのにここにいられなくなるのが本当は怖かったのだ。
「ありがとう…」
それだけ言うのが精一杯だったようだ。
女神様も言葉が見つからないらしく、重い沈黙が続いた。
ものすごく長い時間がたったように感じる。
実際はどれくらいたったのだろうか。
耐えられなくなったぼくは口を開いた。
「今日の晩御飯、何にします?
美子の好きなもの、いっぱい作ろう」
一瞬の間の後、二人は笑った。
「コマって食べ物の話ばっかり」
「さすがコマ兄だね」
そう言うと三人で大笑いした。
無理をしながら大笑い。
そうしなければ泣いてしまいそうだったから。

 その日の夜、ぼくは布団の中でひっそり泣いた。
後悔はしていない。
ただただ、悲しかった。

 人間として生活して気づいたことがある。
大切な人ができると、人は涙もろくなってしまうものだ。



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