3月も中頃、タカシくんが来た。
「実家のそばで仕事をするんだ」
だから、今日はお別れに来たそうだ。
「実家ってどこ?」
ぼくは聞いた。
電車で2時間くらいの所だそうだ。
「機会があったら遊びに行くね」
ぼくはそう約束した。
「結婚式には呼ぶから」
タカシくんはそう言ってくれた。

 女神様がお茶を持って来てくれた。
タカシくんは女神様にも挨拶をした。
「まぁ、いつまでこっちにいるの?」
「大体3月の終わりくらいまでです」
あと2週間くらい、時々伺います、とのことだ。
「じゃあ、腕によりをかけて超高性能な御守りを作っておくね」
女神様はそれを大事な人とのお別れの時には必ず作るそうだ。
それはもう、交通安全から安産祈願、無病息災、受験合格なんでもござれ、らしい。
ぼくも初めて聞いた。
タカシくんはお礼を言い、夕方くらいには帰って行った。

 帰る間際、タカシくんは変なことを聞いた。
「おば様とケンカでもしたの?」
全く身に覚えのないことだった。
「そんなことないよ。
でも、突然どうして?」
「コマがいつもよりおば様としゃべらなかったから変だなって。
でも座る位置はいつもより近かったんだよね。」
確かに、あの日以来女神様とはあまりしゃべらなくなった。
というより、何をしゃべっていいかわからなくなったのだ。
「そういえば美子ちゃんは?」
「えっと…」
ぼくは何も言えなかった。
「ごめん、何か悪いこと聞いたみたいだね」
「ううん、いいんだ。
また、ヒマができたら遊びに来てね」
タカシくんは帰って行った。
実家に帰るまで、あと2回ほど来てくれた。



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