れんさんは、たまにやってくる。
ほとんどがお使いで、れんさんの神社の神様が持っていない道具を借りにくるとか、それを返しにくるとか、
銀杏がたくさん実ったからおすそ分けとか、たいていそんな感じでうちにくる。
「今日は、遊びに来ました」
珍しくれんさんはそう言った。

 ぼくと女神様とれんさんでお茶を飲んだりお菓子を食べたり。
いろいろな話もした。

 帰り際、れんさんに頼まれた。
「コマくん、送ってくれる?」
「えぇ、いいですよ。
じゃあ、ちょっと行ってきます」
女神様は気をつけてね、とだけ言って送り出してくれた。

「美子ちゃんのこと、聞いたよ」
れんさんはそう切り出した。
ぼくは返事に困ってしまう。
「コマくん、女神様と離れたみたいね」
タカシくんにも言われたことだ。
「ぴったりくっついていたけど、距離は遠ざかった」
ぼくはもう逃げ出したくなった。
「美子ちゃんのことで二人の距離が離れたら悲しいよ」
ぼくには何も言えなかった。
そんなぼくを見てれんさんはさらに続けた。
「ごめんね、でも、二人にはずっと仲良くあって欲しい。
これは私の最期のお願い」
ぼくはつい吹き出してしまう。
「最後って…大袈裟だなぁ」
れんさんは何事もなかったかのように話題を変えた。
「時々、境内を案内したり一緒に歩いたりしたよね。
デートみたいで楽しかった。」
「デートだなんて…」
さっきとは違う意味で逃げ出したくなった。
デートだなんて恥ずかしすぎる。
「ねぇ、手をつなごうよ」
ぼくはどきどきした。
そしてゆっくり手を握った。
温かくて安心できる手だ。
ぼくたちはできるだけ一緒にいられるようにゆっくり歩いた。

 ぼくは途中でちゅうしてとか言われたらどうしようとか思っていたが言われなかった。
残念なような安心なような…いや、安心だな。

 別れ際、ぼくはれんさんにお礼を言った。
「あの…ありがとう。
女神様ともっと仲良くするから」
れんさんは安心した顔でぼくに微笑みかけて言った。
「頑張ってね」

 帰り道、今のことを女神様に話そうと思った。
ぼくはほんの少しだけ元気が出ていた。



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