なぜか、今夜は眠れない。
背伸びをしても、寝返りをうっても、あくびをしても、目をつぶっても、どうしても眠れない。
ふぅ、と小さくため息をつく。
この神社は小さく、ひとつの部屋で3人とも寝ている。
眠れないからといって、電気をつけたら二人に迷惑をかける。

 少し外の風にあたろう、そう思って体を起こす。
「コマ、眠れないの?」
女神様の声がした。
「えぇ、まぁ・・・もしかして、起こしちゃいました?」
女神様のいるほうを見て言う。
姿ははっきり見えない。
「ううん、私も眠れないの。
よかったら、一緒に月でも見ない?」
「えぇ、喜んで。」

 ぼくたちは、出入り口に座った。
美子がはじめてきたときに座っていた場所だ。
「きれいね、すごく。」
月を見ながら、うっとりと女神様が言う。
「えぇ、そうですね。
月をこうやってゆっくり見るの、初めてです。」
「いつか、花もうれしそうに見てたよね。
今の生活、新鮮でしょ?」
「はい、何もかもが新しくて、とっても楽しいです。」
「素敵なことね。」
女神様は、そういうとまた月をながめる。

「もうすぐ、満月ね。」
しばらくして、女神様が言う。
「あ・・・本当だ、もうすぐまんまるになりますね。」
月は明るく、神社のまわりがよく見える。
鳥居のそばには、彼岸花が咲いている。
「・・・悲しい思い出・・・」
女神様が、小さな声で、つぶやくように言った。
悲しい思い出、そう聞こえた。
「女神様は、何か考え事をしてたんですか?」
「・・・わかる?すごいね。」
「ん・・・なんとなく、そうかなって思って・・・」
何を考えていたのか、結局ぼくは聞かなかった。
聞いたら悪い気がしたのだ。

「満月の日には、3人でお月見をしましょう。」
女神様は、今度は明るい声で言った。
すごくやさしい笑顔だ。
顔は見えないが、口調でわかる。
「えぇ、そうしましょう。楽しみですね。」
「さぁ、そろそろ寝ようか。明日がきついからね。」
ぼくたちは、部屋の中に戻った。

 次の日、ぼくたちは、3人とも寝坊した。


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