今年もエイプリルフールがやってきた。
また、ウソをつこうと思う。
どんなウソをつこうかと考えながら、なんとなく外に出てみた。
そこで目に付いたのはご神木・・・あ・・・そうだ・・・

「女神様、女神様、ご神木にりんごとかみかんがなっていました。」
ぼくは、早速思いついたウソを、女神様に言ってみる。
「あら、そうなの?ちょっと見てくるね。」
そう言って、女神様は外に出た。

 しばらくしたが、女神様が戻ってくる様子がない。
どうしたのかと耳を澄ましてみると、声が聞こえてきた。
女神様の声と、知らない人の声だ。
「・・・うん、じゃぁ・・・お願いね。」
「お安い御用でさぁ、女神様。」
どこかのお店に配達でも頼んだのだろうか。
そんなことを考えていると、女神様がぼくを呼んだ。
「コマ、ちょっとおいで。」

 外に出てみると、ご神木にいろいろな果物が実っていた。
りんごにみかん、ぶどう、いちご、柿・・・
女神様は意地の悪い顔で笑った。
「ちゃんと見ないと、いちごもぶどうもなっているよ。」
ぼくはリアクションがとれず、馬鹿みたいに口をあけて突っ立っていた。
女神様はくすくす笑いながら言う。
「この木の精にね、頼んだのよ。いろいろな果物を実らせて、って。」
私をだまそうなんて100年早いのよ、といって女神様は中に入った。

 せっかくのウソがうまくいかず、ぼくはちょっとがっかりして空を見上げた。
すると、鳥が何羽か飛んでいた。
あ・・・そうだ・・・

「女神様、女神様、ご神木にかささぎとクマゲラがとまっています。」
「今度はどんなウソなのよ・・・」
女神様はおかしそうに言った。
「えっと・・・かささぎは九州北部の鳥で、クマゲラは北海道の鳥だから同じ木に止まることはありえないってウソです。」
「自分でウソってばらして・・・」
女神様は必死に笑いをこらえていた。
ぼくは何かおかしなことを言っただろうか。
「じゃぁ、ちょっと見てくるね。」
そういうと、女神様は外に出た。

 また、しばらく女神様が戻ってくる様子がなかった。
もう一度耳を澄ますと今度は口笛が聞こえた。
今度は流石に無理だろうと思っていると、女神様がぼくたちを呼んだ。
「コマ、美子、ちょっとおいで。」
ぼくたちが外に出ると、それはもうたくさんの鳥がご神木に止まっていた。

ぼくは呆然としてみていた。
美子はたくさんの鳥がいたのをとても喜んでいた。
「奥さん、ここまで来た記念に突っついていいかい?」
「さぁ・・・それは木の精に聞いてもらえるかしら?」
「穴があかない程度に30発までならOKでさぁ。」
それを聞くと、クマゲラ、アカゲラ、アオゲラが一斉にドラミングをはじめた。
「わぁ、すごいすごい。」
美子は大喜びだ。
「圧巻ですなぁ・・・」
「いや、まったく」
かささぎとルリカケスが話をしていた。

ぼくたちは3人で鳥の様子をしばらく眺めていた。
「ワープゲートをね、作ったのよ。もちろん、きちんと元の住処へ帰すよ。」
女神様が言う。
「私をだまそうだなんて100万年早いのよ。」

 晩御飯を食べながら、突然美子が言った。
「今日ね、鳥居のところから虹が出たんだよ。
その虹の上を歩けたよ。虹の上でたくさんの鳥さんやちょうちょさんとお話しちゃった。」
ぼくも女神様も驚いた。
予想外すぎたのだ。
「それは素敵だね。」
「そういう日もあるよね。」
でも、なぜか美子のウソはぼくたちまで幸せな気持ちになれるのだった。


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