ここに来て約半年。
ぼくはもともと、ここの狛犬ではなかった。
「どうして、ここに来たの?」
美子に聞かれる。
なんとなく、美子と昔の話をしていた。

 ぼくが昔暮らしていた神社は、すごく寂れていた。
ここに輪をかけて人気もなく、周りからも見えにくい。
しかも、夜中はこの町の丑の刻参りの名所になっていたのだ。

 そこでは、丑の刻参りで人が死なないように呪いを防いでいた。
だから、名所ではあっても成功率は低い場所だった。

「呪いを防ぐのって、大変じゃないの?」
美子が聞く。
「あぁ・・・大変だよ。
悪霊や、呪いと何度も戦って、死んで、そのたびに生き返る。
そうやって何年も何百年も、ずっと神社を、人間たちを守ってきた。」
昔を思い出すと、遠い目をしてしまう。
「すごいんだね、コマ兄。」
「ありがと。続きを話すよ。」

 寂れた上に呪いの名所。
そこの神様はとうとう人間に愛想を尽かした。
「この神社をつぶそうと思う。」
ある日、突然神様に言われた言葉だ。
あのときの悲しそうな寂しそうな顔を、今も覚えている。

 その後、どうするか3人で話し合った。
ぼくと、神様と、狛犬の相方。
相方はぼくの弟で、ぼくたちに名前はなかった。
ぼくは弟を弟と呼び、弟からは兄者と呼ばれていた。

 神様は、全国をまわり、自分の居場所を探すとおっしゃった。
しかし、神様についていく必要はない、とのことだった。
弟は北のほうに行きたい、と言っていた。
ずっと寒い地方にあこがれていたらしい。
しかし、ぼくはこの町が好きだった。
だから、ここにずっといたかった。
3人で話して、お互いの行く方向が決まった。

 ぼくはこの町に残ることにした。
とりあえずこの町で居場所を探そう、と思った。

「長くなったね。」
美子はもう眠そうだ。
「うん・・・ちょっと眠い・・・」
「そうか。続きはまた今度にしよう。」
ぼくはそういうと、美子を布団に連れて行った。


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