その日は、美子が帰ってくるのが遅くなっていた。
「遅いなぁ・・・心配だなぁ・・・」
「まだ5時2分ですよ。もう帰ってきますって。」
女神様が激しく心配しているので、一言声をかける。
美子の門限は5時だ。
女神様によると、5時というのが子どもが帰ってくる正しい時間らしい。
「だって・・・もしかしたら、車にぶつかったのかもしれないし、誘拐されたのかもしれない。
第一、今まで遅くても5時5分前には帰ってきてたのよ。」
「まぁ、そうですけど・・・」
ぼくは答える。
確かに、いつもより遅くはあるが、子どものことだ。
心配するほどのことではないと思う。

 そのとき、美子が呼んでいるのがわかった。
テレパシーのようなものだ。
「急いで行くよ。」
「はい!!」
女神様が険しい表情をしている。
これまでも―そしておそらくこれからも―見せたことのない表情。
そして、それは多分ぼくも同じだった。
ぼくたちは、瞬間移動をして、美子のいるところに向かう。

 美子がいたのは、大きなお寺だった。
中に入っていくと、出てきたのは若いお坊さんだった。
「美子を・・・返してもらう。」
できるだけ冷静に言う。
「あなた方が、あの子の保護者ですか?」
お坊さんは落ち着き払って言う。
「・・・美子を返してもらう。」
ぼくはもう一度言う。
さっきよりも、力の入った声になっていた。
「コマ、会話が成り立ってないよ。
ひとまず私に任せてくれるかな?」
「・・・はい。」
女神様は二言三言お坊さんと話し、美子のいる部屋へと案内してもらえることになった。

 美子は、部屋の真ん中で正座をしていた。


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