精霊は、オレの隣にきて、そして座った。
「船の上も、いいものね。」
そういった。
「そうだね。」
オレも座った。
そして、空を見上げる。
「いいなぁ・・・ここから見る月は。」
「そうだよねぇ・・・きれいねぇ・・・」
しばらく、お互い無言で月を眺める。
「そういえば、あなたは、8月に来るんじゃなかったの?」
ふと、思い浮かんだ疑問を口にする。
「え・・・?毎年この時期に来てるよ。もう、何百年も前から。」
何百年も前・・・もしかしたら、彼女はずっと、旧暦で動いていたのかもしれない。
「あなたのお姉ちゃんと、弟くんは元気?」
正確には、彼は弟ではない。
しかし、彼はオレの弟のようなものだ。
正確な話は、あまり意味がない。
「両方とも元気だよ。」
それからしばらく、俺たちはたわいのない話をした。
もう、東のほうがうっすら明るくなり始めている。
「もう、夜が明けるね。」
「そうね。ここがダムになったら、もう会えないね。」
「・・・いや、またいつか会えるよ。うぅん、きっと会いに来る。」
オレは約束した。
「私は、あなたたちには月の光の上でだけ見えるの。
だから、もうすぐお別れね。
どんぐりのペンダントのお礼に、これをあげる。」
そういって、精霊はペンダントをくれた。
それは、不思議できれいな石でできていた。
「この湖の水を、石に変えたの。
あなたに、ここのことも、私のことも、忘れてほしくなかったから・・・」
「ありがとう。忘れないよ、絶対に。」
そういって、ぼくは彼女を抱きしめようとした。
しかし、触れなかった。
「ごめん、もう、お別れだね。また、いつか会えるよね。会えるといいよね。」
そういって、彼女は消えた。
しばらく、精霊とすごした夜の余韻に浸って、ぼうっとしていた。
太陽の光がだんだんまぶしくなってくる。
「ふぅ・・・もう帰るかな・・・」
右手にそっとペンダントを握りしめながら、つぶやいた。
帰ったら、精霊のことを二人に知らせなきゃな、そう思った。
(完)