今日は5月の第2日曜日だ。
世間ではこの日を母の日というらしい。
ぼくは以前、テレビでこの言葉を聴いて女神様に尋ねたことがある。
「母の日って何ですか?」
「自分のお母さんに、感謝する日のことよ。」
ずいぶんと不思議な話だと思う。
「普段は感謝しないんですか?」
「ううん、そうじゃなくてね・・・なんていうのかな・・・
その日に日ごろの分をまとめて、だよ。」
わかったようなわからないような話である。
「コマ兄、お花屋さんに行こう。」
美子が自分から買い物に行きたがるのは、珍しいことだった。
「どうしたんだい、突然?」
「今日は母の日でしょう?だからカーネーションが必要だと思って。」
「あぁ、なるほどね。」
ぼくは豪華な晩御飯を作るつもりだったが、お花もいいな、と思った。
花を買って、ついでに晩御飯の材料も買って帰ろう。
「じゃぁ、行こうか。」
美子と一緒に外に出る。
「うわ・・・ちょっと待ってて・・・上着とってくる。」
外は思いのほか寒かった。
「半そではまだ早いよ。」
美子が笑いながら言った。
美子と歩きながら、いろいろなことを思い出す。
ぼくが今の神社で暮らすようになったときのこと。
女神様は周りにはぼくたちは親子だということにしよう、といった。
でも、と言って付け加えてくれた。
「でも、本当の母親みたいに、あなたを大事にしてあげるからね。」
だから、美子がぼくたちと暮らすことになったとき、ぼくは美子に言ったことがある。
「ぼくの子どもみたいに、すごく大事にするからね。」
でも、美子はそれを拒否した。
「そしたら、女神様がおばあちゃんになっちゃうじゃない。」
あぁ、なるほどね、と思った。
そこまで考え付かなかったのだ。
「だから、私はあなたの妹だよ。」
美子は、そうまとめるのだった。
冬に行ったときと同じお花屋さんに行った。
相変わらず、明るくてきれいにしてある。
「いらっしゃいませ、あら、この間の・・・」
店員さんは、まだぼくたちのことを覚えていた。
「今日はどういったお花をお探しですか?」
「いや、何かお花を・・・」
「コマ兄はよくわかってないんだから黙ってて。」
美子に怒られた。
美子が店員さんと話を進めている間、ぼくは周りの花を見ていた。
「じゃぁ、母の日のプレゼントを買いに来たのね。」
「うん、そうだよ。」
「お金はいくらくらいの予定かな?」
「ちょっと、わかんない。」
話を聞いていたぼくは口を出した。
「一応、1000円から1500円くらいのつもりです。」
「そうですねぇ・・・」
店員さんは花束をひとつ見繕ってくれた。
「母の日用のセットなんです。赤と白のカーネーションが半々で花束になっています。」
ぼくたちはそれを買って帰ることにした。
「じゃぁ、杏お姉さん、またね。」
帰り際、美子はそういうと店員さんに手を振っていた。
「あら、二人ともどこに行っていたの?」
家に帰ると、女神様に聞かれた。
「えっと・・・あの・・・」
ぼくはなんと言って花束を渡したらいいのか迷ってしまう。
「あら?その花束はどうしたの?」
女神様は不思議そうな顔をしている。
「いつもありがとう。二人からの、感謝の気持ちだよ。」
ぼくがいい言葉を見つけられないうちに、美子が言ってくれた。
「えぇぇ・・・うそぉ・・・すごくうれしい・・・」
女神様は泣きながらそういうと、ぼくたちを抱きしめてくれた。
「ありがとう・・・本当にありがとう・・・」
泣きながらなので、言葉は途切れ途切れだ。
女神様は、ぼくたちをぎゅっと抱きしめてくれた。
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