私が絵を描き始めようとした時、自分が独創性の豊かな香りの高い絵画を創り出せるとは、到底想像できる事ではありませんでした。
また、人間の<愛と感動>を絵画を通して語るのも気が引ける事でしたから、練習すれば<見える通り>に描き得るのであれば、そういう仕事をやってみたいと考えていました。
(その時の理想のイメージは、カラヴァッジオの<果物籠>でした)
私も、又通常の人が考えるのと同じに<見える通り>に描くためには、対象を細大漏らさず丁寧に観察して<見える通り>の色や、線や、明暗に合致する絵具をパレットの上で調合して、それを事細かくキャンバスに移してゆけば良いだろうと考えて出発しました。
しかし、それから7年程過ぎた頃<見える通り>に描く絵画は、完全に行き詰まる事になります。展望を開くためにはどうしても次の様な発想を導入せざるを得ませんでした。
それは眼が現実の、ある姿・形を認めてそれを確認する時、現実のそのままの有りようと、脳が判断した形状の具体的所見の間には、大きな<ズレ>が生じているのではないかという疑念です。そう考えてみると、色んな所で辻褄が合う事が多い。そこで一応<人間の眼は、現実のそのままを視てはいない>という命題を固定して、そこから新たに絵を描く事にします。
その結果「何故その様な現象が起こるのか、その理由を見つける事」が、私の長年の課題となりました。
<再現について>TUVで述べました事項は、その事に関しての私の意見です。私の描く絵画を、文章で表しましたらそうなると考えて頂くと嬉しいのですが。
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