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釈 尊 フ ァ イ ブ の
お説教は言わないで

「釈尊ファイブ」が贈るキテレツ仏教・密教解説。限定25歳未満! 25歳以上の方には刺激が強すぎる恐れがあります…

第22話「最も優れたお経はどれ?」 −天台智の教相判釈−

マイケル ねぇねぇ、いま流してたのって誰の曲?
ジャネット えぇ? 知らないの? 最近よく売れてるダンスグループの曲よ。すっごくいいんだから!
マイケル どこがいいの? どうせみんなが買うから買ってんでしょ?
ジャネット そ、そんなことないわよ。ほら、この雑誌でも、パワフルなボーカルと、オリエンテッドなサウンドが売れる原因だって書いてあるでしょ?
マイケル じゃ、なんでボーカルはパワフルなほうがよくて、サウンドはオリエンテッドなほうがいいわけ?

ジャネット
 そ、それは… 実際に曲が売れてるんだから、それがその証拠じゃない!
マイケル 「なぜ売れる? → いい曲だから」、「なぜいい曲? → 売れているから」。それって堂々巡りだよね。どうせマスコミが流しまくるから、いい曲のような気がしてくるんだよ。
ジャネット …もう、言わなくたっていいじゃない、そんなこと! それより、あんたは何を聞いてるの?
マイケル そりゃ、やっぱりコレっしょ!
ジャネット マイケル・ジャクソン!? ははぁ、確かにテレビで流れまくってるからねぇ。ふふふ…
マイケル ち、違うよ! マイケル・ジャクソンはすごいんだよ。全米シングルチャートでも、「最年少で首位」と「最初の初登場1位」を記録してるし、「年間売上げ高が1億ドルを超えた最初のエンターテイナー」、「史上最高額の所得を得たエンターテイナー」って言われてて…
ジャネット そんなの、いいのよ。そんなランキング抜きに、マイケル・ジャクソンは私もすごいと思うわよ。
マイケル あ、そうなの。そりゃよかった。で、なんでそう思うの?
ジャネット そりゃぁ、決まってるでしょ? 私がすごいって認めたアーティストだからよ。
マイケル あんた、どんだけ偉いんだよ!

 お経はインドで作られ、中国に伝えられました。インドでは釈尊の死後、いろいろな考え方の教団が生まれ、段階的にお経が作られていったわけですが、それが4世紀になって、いっぺんに中国に伝えられたため、「いったいどれが本当の仏教なの?」ということが問題になりました。

 そこで、中国の仏教者たちは、数々のお経をいくつかにグループ分けし、ランキングをつけました。これを教相判釈きょうそうはんじゃく)といいます。

 たとえば竺道生は、善浄法輪(在家信者向けの教え)、方便法輪(小乗仏教信者のための教え)、真実法輪(法華経の教え)、無余法輪(涅槃経前半部分の教え)の4段階説を示しました。

 また慧観は、釈尊が教えを説いた順序を5段階に分け、(1)四諦転法輪 (2)大品般若経 (3)維摩経・梵天思益経 (4)法華経 (5)大般涅槃経 の順に経典が成立したという説を唱えました。

 竺道生も慧観も、入滅(逝去)する直前の釈尊の様子が描かれている涅槃経ねはんぎょう)こそが最高の教えであるとしています。

 しかし、もっとも有名な教相判釈の提唱者である天台智てんだいちぎ)は、次のような説を唱えています。

五時 教えを説いた状況 経典名 特徴
華厳時 釈尊が悟りを得た直後に説いた 華厳経 高度で難解、抽象的
阿含時 釈尊が鹿野苑(サールナート)で説いた 阿含経、法句経などの南伝経典 簡潔だが浅い
方等時 祇園精舎などで説いた 阿弥陀経、大日経、金光明経、維摩経、勝鬘経など 物語性のある大乗経典
般若時 霊鷲山などで説いた 大般若経、般若心経など 般若系の経典
法華涅槃時 釈尊が晩年に説いた 法華経、涅槃経など 法華系の経典

 智によると、釈尊が悟りを得た直後は、高度だが難解で抽象的な教え(華厳経)を説いてしまい、悟りの内容をうまく伝えることができませんでした。そこで今度は、分かりやすくて簡単に実践できる教え(阿含経など)を説くようになり、だんだんに説法のテクニックを向上させ、最後に法華経を説いたのだといいます。だから、最も優れたお経は法華経だというわけです。

 では智はなぜ、法華経を最高の経典だと位置づけたのでしょうか? 専門用語を使えば、「化義の四教」と「化法の四教」をいずれも超越しているので法華経は優れている、という説明になります。分かりやすくいえば、「形式からも、内容からも、非の打ちどころのないお経だから」ということです。

 もちろん、そもそも仏教経典は釈尊の直接の言葉ではなく、のちの弟子たちによって、長い時間をかけて成立したものです。成立した順番も、智の説は歴史的事実とは異なります。

 しかし、智の教相判釈は膨大な仏典を形式と内容によって的確に分類しており、いわば仏典のインデックスの機能を見事に果たしました。そのため、それ以降の中国仏教だけでなく、このころ仏教を受け入れ始めた日本にも多大な影響を与えます。聖徳太子の法華経重視の姿勢はそのあらわれです。また、言うまでもなく日本の天台宗も、法華経を根本経典と位置付けています。

 ただ、真言密教徒の私からすると、「それって結局、智の主観じゃないの…?」という気持ちが、ないわけではありません。

 智のインデックスによれば、見方によっては、悟りを得た直後の華厳経こそが純粋な釈尊の教えだともいえます。また、釈尊の説法テクニックがだんだん向上したのであれば、法華経よりも、入滅直前の涅槃経のほうが優れているはずです。

 私の個人的見解としては、智が活躍したという時代背景があるのではないかと思います。「三国志」で有名な三国時代から始まる魏晋南北朝時代は、中国全土に怒涛の混乱と荒廃をもたらしました。この混乱を収めた隋王朝も、2代目の煬帝の治世になるとすでに崩壊の危機を迎えます。こんな大変な時代を生き抜くには、個人個人が相当な力を持っていなければなりません。法華経はまさに、末法を生きるエネルギッシュな個人をたたえる現世利益の経典です。智のインデックスが時代のニーズにマッチした、というのが、私の「判釈」です。

2009年8月15日 坂田光永

※ このコーナーと縁浅からぬ稀代のスーパースター、マイケル・ジャクソンの死を、心から悼みます。「We Are The World」は仏教思想に通じると、私は思います。ありがとう、マイケル。


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