残念ながら、私はまだ 「ロォージェ」 や 「ロブション」 といった東京にある評判のフランス料理店の料理を食べた事がありません。 フランス料理とどこがどう違うのか私にはよく判らないイタリア料理ともなると定評のあるお店の名前にも疎いので、益々体験の頻度が少なくなります。 それに比べれば日本料理の方は、雑誌やテレビでよく登場する評判のお店は機会があれば予約をとってわざわざその店を訪れるという手間暇のかかる事を “そこそこ” やりました。 (お寿司の名店と呼ばれているところは怖いので敷居を跨いだ体験はありません)
体験的に言うと、名店とか評判のお店とかで出される料理は、なるほど 「おいしい」 と感じ入る場合が多いのですが、だからといって、経済的に又 時間的にそれを許される身分になれたとしても、名店巡りを毎日続けるかというと疑問符はやはり付くと思います。 味覚や内臓が飽和するだろうと予想するからです。
そんな心配がないのが “我が家” の料理でしょう。 自分達の味覚や内臓の調子に合わせて調節できますから、毎日続けて食べても飽和する事は少なくてすみます。 家庭料理では 「目からウロコ」 という程の未知のおいしさに出逢う事は多くありませんが安心して食べられる “よく知っている” おいしさがあります。 カレーや ハンバーグ、又 炊き込み御飯や バラ寿しや 親子丼といった料理は、作るつもりでレシピを真剣に学習すれば、大抵の人はその調理法を習得できるだろうと思いますが、しかしながら上記の様な家庭の定番料理も毎回同じレベルの味に仕上げるとなるとこれは至難の業です。 家内が作る上記の料理も毎回少しづつ出来ばえのレベルが違ってしまうし、又 味も微妙に移動するようです。 それは当たり前と言えば当たり前ですけれども、例えば親子丼の場合を考えてみますと、その出来ばえを分ける項目をすぐに数える事ができます。
@おいしい鶏肉を手に入れる方法を日頃から心がけておく
A卵も生鮮食料品で新しいほど味に力がある
B勿論、だしは大切
C醤油・みりんといった調味料を吟味しておいた方が得
D醤油・みりん・砂糖の割合をどう決めるか
E三つ葉は当然としても、玉ねぎを入れるか、入れないか
F御飯は、お米自体よりも炊く 「水」 を気をつけるほうが得
Gだしの味つけの濃さ加減と卵の煮つめ具合とごはんに含ませる
だしの量をどうするか、ほどほどの粘度は大切
H丼に一度蓋をして、短い蒸らしをするか しないか
いつもは、親子丼を作る家内の脇でそれを見学している 「門前の小僧」 の 「知識」 ですけれども、カレーや ハンバーグや バラ寿しにおいても事情は全く同じでしょう。
ちょっとした手間、ちょっとした注意、ちょっとした愛情が、いくつも いくつも重なった時、天地の落差が結果に現れてくるのだと確信しています。 どんな料理でも同じでしょうが、注意深く作れば親子丼もまた 「奥が深い!」 のです。
長い前段になりましたが、私が日頃描いている 「再現」 というヨーロッパ風の絵はさしづめ絵画の 「親子丼」 と言ってよいものです。 珍しくはありませんし誰でもやろうと思うのなら取りかかれる画風ですけれども、係わってみると 人が生涯に亘って探求するに値する謎を秘めている領域であるのです。
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