講演当日の午前中、一足先に 油絵三点 (25号変型 「枇杷とサクランボ」 ・ 8F 「アンティックドール」 ・ 6F 「パン籠とビール瓶」 )
を会場へ持って行き、セッティングしました。 部屋は、日頃、結婚披露宴が行われる様な会場で、10人掛けの円卓が、講演者を囲むように 六台準備されていました。
午後 1時の受付になると、三々五々、聴衆が 集まってこられ、瑞来さんの絵のオーナーさん達を始め、久し振りに お目にかかる方々も 沢山いらっしゃいましたが、一面識もない方々も、半分くらいは
いらっしゃって、会場は 賑やかになってきます。 参加者は、全員で 60名くらいでした。
主催者の ご挨拶の後、いよいよ 瑞来さんの話が始まりました。
演題は、『人は何を見ているのか〜フェルメールから学んだこと』 で、講演時間は 一時間、その後、コーヒー・ケーキを食べながら 質疑応答の予定でしたが、講演慣れしていない瑞来さんは、用意していた原稿 (棒読みにすれば 35分だった )の 他の話にも広がって・・・・・結局、一時間では納まらず、会場の時間の都合上、最後は、皆さん コーヒー・ケーキを食べながら 講演を聞くという 顛末になりました。
講演の内容を 要約すると、瑞来さんの年齢に沿っての 絵画人生の話でした。
25歳で、画家になる事を 決意、美術大学へ 行き直し、学生生活 四年間の間に、「自分が、どんな絵を 目標にして、絵のトレーニングをするのか」 方向づけを考え、「生涯の最終目標を フェルメールと定めて」 画家への 第一歩を踏み出します。
東京から四国中央市へ帰ってきて、まず、石膏デッサン (ミケランジェロ作 『ブルータス』) を始めます。
三年経ち、四年経ち、六年経っても、同じ失敗の繰り返しで、石膏デッサンは 完成に たどり着かないまま 七年目を迎え、約 80枚のデッサンの 同じ失敗を 繰り返した時の心境は、“絶壁を見上げて、途方に暮れて 佇んでいる 旅人のイメージ” だったそうです。
それから 三ヶ月間は、デッサンは 中断して、「自分が、何を間違えているのか」 一生懸命 考え、導き出した答えが、「人は、絵を下手にしか描けない、それが自然であって、もし
上手に絵を描けるとしたら、それは不自然な事ではないのか」・・・と気づき、それでは、「人は、何故、絵を下手にしか 描く事ができないのか」・・・その理由を、なぜか・なぜか
と探る事 一ヶ月余り、ある出来事から、「人の視細胞は、光の強さによって 感度の違う 二種類の細胞があって、光が 強く当たっている明るい場所では
視細胞は感度を鈍くし、逆に、陰影の暗い部分では 感度が鋭くなっているので、実際のデッサンに この考えを導入して、光の当たっている部分は、見えるよりも
一層 明るく描き、陰影の部分は、見えるよりも 一層 暗く描かなければ、現実の事実に近づかない という仮説に基づいて、再度、石膏デッサンに挑戦して、初めて、完成と言っていい所まで
たどり着きました。
約 七年の歳月と、約 80枚の失敗作の後に、ようやく 最初の 一枚の 石膏デッサンが完成したのでした。 (続く)