法話集
ふうせんかづら
高野山本山布教師 坂田 義章
バランスをくづせば悪玉になってゆくお前もさうか雨の石蕗
白昼夢見てゐるやうな石蕗の黄の色彩犬も鼻鳴らす
枯れ葉色の風の説法にもこもこと染まりてゆくかエノコログサの穂
瞳にはナナカマドの赤染みてくる光耀(かがよ)ふ吾娘(あこ)の生まれし日
色(しき)は空(くう)空は色なりあかあかと入り日背にして裸木の欅
なんといふこのあどけなさ天(そら)めざすひとかたまりの裸樹の垂直
懺悔の呪唱へと言ふや雪消えの朝を南天の実の光(て)り映ゆる
虚と実をなひまぜながらチューリップの莟の見するさまざまな顔
ふくみ笑ひしてゐるやうなアマリリスわが日常の一つの異変
心の奥深いところでエロスなる息ひそめるや夜の紫陽花
真昼間の闇を照らせよドクダミの白十字の花雨に咲きをり
気が付けば純綿(めん)の肌触りに似たる風ありて欅の青き渦立ち
口ぐせに先に逝ってと言ふ妻のシャワー浴ぶる音ひぐらしの啼く
五年後の扉の向うにある姿見えず揺れゐるふうせんかづら
もう一つ別の生き方を夢としてあらあらかしこふうせんかづら
南無大師遍照金剛 合 掌
このうたは、高野山出版社『高野山時報 新春合併特集号』(2004年1月発行)に掲載されています。
《過去掲載分》
○ 2004年1月21日「心の師」
○ 2003年10月21日「百日紅の花」
○ 2003年8月21日「露団団」