仏教と現代
昔のお寺がそのままに
6月14日(木)の朝、FMふくやま(レディオ・ビンゴ)に出演させてもらいました。6月22日(金)に行う「声明キャンドルナイト」の紹介をさせてもらいました。聞き手は歴史家の田口義之さん。ここでは、そのときの様子を、文字で再現してみました。
田口 この時間は、福山市東深津町のお寺、光明院の副住職・坂田光永さんにお越しいただきました。坂田さん、よろしくお願いします。
坂田 こちらこそ、よろしくお願いします。
1.キャンドルナイトとは?
田口 今日は「声明キャンドルナイト」のご紹介をされるということですね。
坂田 はい、今日は「声明キャンドルナイト」という企画をこ紹介いたします。私は東深津町七丁目にあります真言宗寺院「光明院」の副住職をしているんですが、こんどの6月22日に、夜8時から9時ごろまで、うちの寺の本堂を使って「声明キャンドルナイト」という企画を行います。
田口 なるほど。では、詳しくお願いします。
坂田 はい。うちの「声明キャンドルナイト」をご紹介する前に、まずは「キャンドルナイト」とは何か? についてお話しようと思うんですが、ところで田口さん、6月22日は何の日でしょう?
田口 なんの日でしょうねぇ?
坂田 えぇ〜っ、夏至ですよ。一年で最も太陽が昇っている時間が長い日です。この夏至にあわせて、全国一斉に「1000000人のキャンドルナイト」というイベントが行われます。電気を消して、ろうそくの明かりで過ごしてみませんか〜、という環境イベントなんです。全国各地でいろいろな企画が行われるんですが、たとえば東京では、夜になると東京タワーがライトダウンされたり、そこでコンサートなどが行われたりするそうです。
田口 福山近辺でもそういうのが行われているんでしょうか?
坂田 はい。私たちの「声明キャンドルナイト」のほかに、福山駅北口の噴水広場では、「ぷくぷく」という市民グループが企画する「キャンドルナイトin Fukuyama」があります。また、市内各地のカフェやバーでも、電気を消してろうそくで楽しむ、というイベントが行われるようです。もちろん、実はすでに自宅で個人的にやっていたよ〜、という人も、けっこういるんじゃないかと思います。
田口 このイベントの目的っていうのは、何なのですか?
坂田 はい。「でんきをけして スローな夜を」というのがキャッチフレーズなんですが、私たちが普段は頼り切っている電気を、この日だけはちょっと消してみて、夜の暗さや、意外な明るさを体験してみようよ、というものです。今、地球温暖化がいろいろと話題になっています。「でも電気は絶対に必要だしなぁ」と私たちは考えてしまいます。そこで、実際にもし電気を消したらどうなるだろう、というのを、このキャンドルナイトでみんなで体験してみる。そこから何を感じるかは自由なんですが、何か地球のことを考えるきっかけになったらいいな、と思います。
2.「声明キャンドルナイト」について
田口 では続いて、坂田さんのお寺で行われる「声明キャンドルナイト」について教えてください。
坂田 はい。今ご紹介した全国一斉の「1000000人のキャンドルナイト」に、今年はうちの光明院も参加しようと思い、企画したんです。でも、ただろうそくをつけるというだけじゃ面白くないので、うちは真言宗のお寺ですから、真言宗に伝わる「声明」を、参加された方々に聞いていただこうと思ったんです。
田口 声明というのは何ですか?
坂田 声明というのは、漢字で「声」が「明るい」と書くんですが、簡単に言うと「お経に節が付いたもの」です。仏の教えがとてもすばらしいので、感動のあまり節が付いてしまった、というわけです。インドで誕生して、中国を経て、日本には仏教伝来とともに伝わりました。宗派によってそれぞれの声明があるんですが、うちは真言宗なので、弘法大師空海が伝えた声明を、代々受け継いでいます。
田口 それは、音楽として聞くこともできるというものでしょうか。
坂田 まぁ普通の楽譜の付いた音楽とは違うんですが、聞けばゆったりとした気持ちに浸れるものだと思います。6月22日の当日は、声明の中でも代表的な「前讃」「後讃」「唱礼」などをお唱えします。本当ならここでさわりを紹介すればいいんでしょうけど、声明をお唱えするにはそれなりの作法があるので、当日聞いていただいて、「ああこういうものか」と思っていただけたらいいですね。
3.このような行事を開催される想いは?
田口 さて、この「声明キャンドルナイト」ですが、どういう想いで企画されたんでしょう。
坂田 はい。この「声明キャンドルナイト」で重要なのは、仏教の「声明」と、環境イベントである「キャンドルナイト」のコラボレーションというところにあると思います。よく、環境保護は経済にマイナスだ、と思われがちですよね。確かに「自分が死んだら終わり」というのであれば、経済優先で環境がいくら悪くなろうとかまいません。でも、もし今より環境悪化が進めば、私たちの子どもの代、孫の代の経済は成り立たなくなってしまいます。地球温暖化の犯人は、人間が出した二酸化炭素だというのが明らかになりつつあります。もしこれからも私たちが二酸化炭素を出し続けたら、そういう仕組みを変えることができなければ、近い将来、各地で異常気象や水不足が頻発し、経済どころじゃなくなります。環境のことを考えない経済発展なんて、実はありえないんです。
田口 なるほど。では、その環境問題と仏教とは、どういう関係があるんですか?
坂田 実は大いに関係があります。私たち真言宗は「大日如来」という仏さんを拝みます。真言宗の考え方では、人間や自然を含めた森羅万象を「大日如来」というふうにとらえているんです。たとえば、動物が死んで、土にかえり、そこから植物がそだち、それをまた動物が食べる。植物が森を作り、森が水をため、そこから川ができ、海に流れ、水蒸気が雲を作り、雨を降らせ、また川になる。こういう食物連鎖や自然の循環システム全体を、「大日如来」として人格化してとらえ、礼拝するのが真言宗なんです。言い換えれば、私たちが住む地球の循環システムが「大日如来」なんですね。弘法大師空海のとらえ方では、私たち人間も、そんな地球の循環の中から生まれ、また死んだら地球の循環の中に還っていくわけです。「自分が死んだら終わり」ではなくて、自分が死んで地球そのものになっていく。私たちも実は地球の一部だったんだ〜と。その地球が、どんどん荒れていってもいいのだろうか、というわけです。
田口 なるほど。そういえば、お寺、声明、ろうそくの明かりとくれば、これは昔のお寺そのままの姿といえなくもないですね。
坂田 ああ、確かにそうですね。その通りですね。
4.時・場所・参加方法
田口 それでは最後に、「声明キャンドルナイト」の時間や場所について、おさらいしをお願いします。
坂田 はい。「声明キャンドルナイト」は、6月22日金曜日、夜8時より9時ごろまで、福山市東深津町七丁目の光明院で行われます。参加は無料、予約はいりません。問い合わせは、電話084-922-1859光明院まで。駐車場が少ないのでご了承ください。そのほか、インターネットでは、ヤフーで「声明キャンドルナイト」と検索いただければ、光明院のHPが出てくると思います。
田口 それでは坂田さん、ありがとうございました。
坂田 こちらこそ、ありがとうございました。
2007年6月21日 坂田光永
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