仏 教 と現 代

空と海をつなぐ

瀬戸内海の風景(撮影=光明院檀徒・藤井和子さん) 釈尊と空海(弘法大師)は全然ちがうことを言っている、と思っていた。「縁起」を軸にした世界観を展開し、「慈悲」を唱える釈尊の仏教と、印や真言や護摩を用いた呪術的な真言密教とは、全然ちがうと思っていた。

 また、仏教と日本の死生観とも全然ちがうと思っていた。私は檀家寺の僧侶だから葬儀・法事を平常の業としているが、「遺骨を拝むな」と言った釈尊に連なる仏教の僧侶がなぜ葬儀をするのか、腑に落ちないこともあった。葬送儀礼や先祖崇拝など日本の民俗信仰は、仏教思想とは別物だと思っていた。

 でも、そうではないことがわかってきた。空海は、釈尊の「縁起」という考え方を、「即身成仏」という身体性あふれるキーワードで止揚した。それは葬送儀礼をはじめとする日本の民俗信仰をも包含していた。

 空海の思想は、空と海をつなぐ。私の今年の課題は、釈尊仏教と日本の民俗信仰を、空海の「即身成仏」思想によって統合することだ。空と海をつなぐ水平線を、今年も見に行こう。

2009年1月1日 坂田光永


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