仏 教 と現 代

奈良、歴史「再発見」


 今年の参拝旅行は奈良に行くことにしました。出発は、遷都千三百年の諸行事が終わり間近な11月です。ほとんど駆け込み参拝ですが、まだの方、せっかくだからもう一度という方、ぜひご参加ください。

 私たち真言僧にとって、奈良というのは、普段は縁の薄いところです。真言宗は「平安仏教」というだけあって、奈良から遷った京の都で発展した宗派だからです。しかし、掘り下げてみると、意外に真言ゆかりの場所があるんですね。

 例えば、東大寺には「真言院」という建物があります。弘法大師空海は弘仁13年(822年)、太政官符により東大寺に灌頂道場としてこの真言院を建立し、平城上皇に灌頂を授けています。さらに後に東大寺の別当(寺務責任者)にも就任しています。東大寺は華厳宗の寺院ですが、実際は南都六宗に真言・天台を加えた「八宗兼学の寺」で、東大寺真言院は南都における真言教学の拠点となりました。

 また、鎌倉時代に叡尊、忍性がおこした真言律宗は、奈良の西大寺を本山とし、同じく奈良の法華寺、般若寺などを再興しました。法華寺は現在は光明宗として独立していますが、真言の伝統が脈々と受け継がれています。ちなみにこの法華寺を開いた光明皇后は、ここ法華寺のからぶろ(=写真。再現)で、ハンセン病などの難病者をケアしたとも言われています。このことは、のちに忍性が鎌倉でおこなった民衆救済活動とも見事に符合しています。

 平安京(京都)に比べて、平城京(奈良)はどうしても影が薄く、具体的なイメージがわかない人も多いと思います。しかし、奈良の都はシルクロードの終着点であり、私たちの想像をはるかに超えた国際都市でした。東大寺の大仏造立も、おそらくは日本の国際的地位を高めるために国の威信をかけておこなわれた、現代でいうオリンピックのような事業だったのではないかと思います。その証左に、大仏開眼供養には、中国、朝鮮半島、ベトナムなどから来賓を迎えています。

 大仏という世界最大の鋳造をつくり、古代染色の研究者が「ピークは奈良時代」と言うほどの高度な技術を誇ったのが、奈良時代でした。文化には、その時代その時代の成熟があります。そんな歴史の「再発見」の旅に、どうぞご参加ください。

2010年8月21日 坂田光永

*奈良参拝旅行の詳細は、こちらをご覧ください。
  平城遷都千三百年祭をめぐる旅


《バックナンバー》

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○ 2010年5月21日「仏法は汝らの内にあり」
○ 2010年4月23日「葬式は要らないか」
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○ 2008年1月21日「千の風になるとして」
○ 2007年10月21日「阿字の子が阿字の古里…」
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○ 2007年3月21日「無量光明」
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○ 2007年1月1日「伊太利亜国睡夢譚」
○ 2006年11月21日「仏教的にありえない?」
○ 2006年10月23日「天使と悪魔 〜宗教と科学をめぐる旅〜」
○ 2006年9月21日「9/11から5年」
○ 2006年8月23日「松長有慶・新座主の紹介」
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