仏 教 と現 代

小さなタイガーマスクが増えること


 あたたかい 人のなさけも
 胸をうつ あつい涙も 知らないで
 そだったぼくは みなしごさ
 強ければ それでいいんだ
 力さえ あればいいんだ
 ひねくれて 星をにらんだ ぼくなのさ

 『タイガーマスク』のエンディングテーマ『みなしごのバラード』の歌詞です。私はリアルタイムに見ていないので知りませんでしたが、法事のときに檀家さんに教えていただいたところによると、タイガーマスクは孤児院出身で、その施設の危機を救うためにファイトマネーを贈り続けたのだとか。

 そのタイガーマスク、本名「伊達直人」を名乗った人が、児童養護施設にランドセルを贈ったのが昨年のクリスマス。その後、“タイガーマスク現象”は衰えるどころか、意外な広がりを生んでいます。
備北丘陵公園(撮影は藤井和子さん=光明院檀徒)
 私ははじめ、どちらかというと否定的な見方をしていました。

 例えば、なぜ実名で寄付しないのか? それは寄付をしたことがばれると、他人から「偽善者」呼ばわりされるからではないか?

 では、なぜ匿名にしないのか? (最初の事例は別として)名前を「タイガーマスク」にすることで報道され、世間から称賛されたいのではないか?

 さらに、タイガーマスク現象以前にも地道に、地味に支援をしてきた多くの人はどう思うだろうか? …などなど。

 そしてこの現象は、しょせん一過性に終わると思っていました。

 しかし、私の予想は裏切られつつあります。例えば厚生労働省は、児童養護施設の職員数増員を検討しているようです。そのほかにも、「これを一過性で終わらせてはいけない」と多くの人が動き始めました。地道な支援者の方への再評価も行われています。

 私は、本当に必要な支援とは、(1)長い目で見て役に立つ (2)継続性のある (3)当事者本位の支援、だと思っています。

 そういう支援活動は、ときに「偽善」「政治的」「裏があるのではないか」などの非難にさらされることもあります。タイガーマスクは「虎の穴」という組織から次々に敵が送り込まれてきましたが、地道な支援活動の“敵”は、世間の無理解であることもしばしばです。

 でもそれは変わりつつあるような気がします。「何かできることをしたい」と思い、実際に行動に移した人がこれだけたくさんいたことは、本当に心強いことです。

 「では何をすればいいのか?」という人には、例えば広島県共同募金会、いわゆる「赤い羽根」が1月からおこなっている「ドナーチョイス方式」の募金をお勧めします。DV被害者支援に取り組むNPOホッとるーむふくやまなど、15の団体が募金をつのっています。小さな額でも、「お金でカンパ」は有益な支援になります。あなたもぜひ考えてみてください。

*広島県共同募金会
 http://220.110.217.42/h-kenkyobo/index.shtml

 あらゆる問題を解決することはできません。できる範囲で、できることを少しずつする。そういう「小さなタイガーマスク」が増えることが、いちばんの近道ではないかと思います。

2011年1月21日 坂田光永




《バックナンバー》

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○ 2009年12月21日「『JIN』のようにはいかないもので」
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○ 2009年6月21日「臓器移植と『いのち』の定義」
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