仏 教
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脱原発・脱石油を誓う2011年の9.11

 今年の9月11日は、3月11日の東日本大震災から半年であると同時に、9月11日のアメリカ同時多発テロからちょうど10年にあたります。

 9.11テロについては、何度も何度も、このコーナーで思いを述べてきました。ですが今年は特に、エネルギーのことが主な関心事になると思います。

 アメリカは9.11テロ後、アフガニスタン、イラクと、次々に戦争を起こしました。イラクは「大量破壊兵器があるから」という理由で攻撃されましたが、見つかりませんでした。これらの戦争には、「石油をめぐる戦争だった」という見方があります。アフガニスタンは中央アジアからパイプラインを引くための通り道として押さえておく必要があったというのです。イラクはご存知、石油埋蔵量が世界第2位の国です。

 日本は石油のほとんどを輸入しています。しかしその価格は、ここ数年で倍になり、物の値段に跳ね返っています。つまり私たちのお金は、アラブの石油王たちに吸い上げられているわけです。もったいない!

 そこで、「脱石油」のためという建前で、日本のエネルギー政策は長らく原発推進に偏ってきました。近年は地球温暖化問題への関心も相まって、「原発は(発電時に)CO2を出さない」という広告でさらに推進されました。その結果が、3.11のフクシマ、ということになります。

 もはや「脱原発」は必然でしょう。では、「脱原発」と「脱石油」は、両立するのでしょうか。私はむしろ、両立させることが最も近道だと思っています。

 例えばドイツは、脱原発と脱石油を同時に進めています。日本で最近成立した「再生可能エネルギー法」をいち早く導入して、太陽光パネルを早くつけた人ほどもうかる仕組みを作りました。市場原理を上手に使った仕組みで、再生可能エネルギーの普及とコスト減が一気に進んだのです。個人の欲を社会全体の利益につなげていく、まさに理趣経の「大欲得清浄」の仕組みです。

 しかしドイツへの「風評被害」として、「ドイツは原発大国フランスから電気を買っている」というのがあります。

 確かにドイツは、フランスから電気を買っています。しかし、フランスもドイツから電気を買っています。むしろ、エネルギー消費量が多い夏・冬には、フランスがドイツから電力を多く輸入しています。フランスの原発は内陸にも造られています。そこでは原発の冷却に河川の水を使います。夏や冬になると、フランスの河川は水位が下がり、原発が稼働できなくなるのです。その結果、差し引きすると、ドイツからフランスへ年間200億〜300億kWhの電力「純輸出」になるのです(ドイツ緑の党・元環境大臣ユルゲン・トリティーン氏の論説)。

 また、ドイツは電力料金が高いといわれます。これは火力発電所の燃料になる石油・石炭に「炭素税」(CO2排出量に応じた税金)が課せられているからで、決して再生可能エネルギーが電力価格を押し上げているわけではありません。再生可能エネルギーの割合が増えれば増えるほど、電力価格は安くなっていくでしょう。

 脱原発と脱石油の両立は可能です。2011年9月11日は、そのことを誓う最もふさわしい日となるはずです。

*9月11日の前夜、福山市元町トライアングル広場で「9.10キャンドルナイト」が計画されています。ぜひお立ち寄りください。(右上チラシを参照)

2011年8月28日 坂田光永




《バックナンバー》

○ 2011年7月28日「フクシマからヒロシマへ、ヒロシマから世界へ」
○ 2011年6月21日「脱原発の、その先へ」
○ 2011年5月21日「原発のうてもえーじゃない」
○ 2011年4月21日「『3分の1は原子力』は本当か?」
○ 2011年3月21日「千年前の聖たちのように」
○ 2011年2月21日「この不確実で不完全な世界」
○ 2011年1月21日「小さなタイガーマスクが増えること」
○ 2011年1月1日「平和の灯を高野山へ」
○ 2010年12月21日「台湾ダーランド」
○ 2010年11月21日「千人の垢を流して見えるもの」
○ 2010年10月21日「いのちの多様性」
○ 2010年8月21日「奈良、歴史『再発見』」
○ 2010年7月21日「身延山と日蓮」
○ 2010年6月21日「ボクも坊さん。」
○ 2010年5月21日「仏法は汝らの内にあり」
○ 2010年4月23日「葬式は要らないか」
○ 2010年3月21日「再びオウム事件と仏教について」
○ 2010年2月21日「立松和平さんの祈り」
○ 2010年1月1日「排他的、独善的な仏教にならないために」
○ 2009年12月21日「『JIN』のようにはいかないもので」
○ 2009年11月21日「排他的?独善的!」
○ 2009年10月21日「アフガンに緑の大地を」
○ 2009年9月23日「笑いとため息」
○ 2009年7月21日「臓器移植と『いのち』の定義 続編」
○ 2009年6月21日「臓器移植と『いのち』の定義」
○ 2009年5月21日「『地救』のために何ができるか」
○ 2009年4月21日「アイアム・ブッディズム・プリースト」
○ 2009年3月21日「おくりびとと『死のケガレ』」
○ 2009年1月21日「『伝道師』としてのオバマ」
○ 2009年1月1日「空と海をつなぐ」
○ 2008年10月28日「会津をめぐる」
○ 2008年9月21日「神秘主義」
○ 2008年7月21日「グリーフレス中学生」
○ 2008年5月21日「祈りと行動と」
○ 2008年4月21日「聖火の“燃料”」
○ 2008年2月28日「妖精に出会う」
○ 2008年1月21日「千の風になるとして」
○ 2007年10月21日「阿字の子が阿字の古里…」
○ 2007年8月21日「目覚めよ密教!」
○ 2007年6月21日「昔のお寺がそのままに」
○ 2007年4月21日「空海の夢」
○ 2007年3月21日「無量光明」
○ 2007年2月21日「よみがえる神話」
○ 2007年1月1日「伊太利亜国睡夢譚」
○ 2006年11月21日「仏教的にありえない?」
○ 2006年10月23日「天使と悪魔 〜宗教と科学をめぐる旅〜」
○ 2006年9月21日「9/11から5年」
○ 2006年8月23日「松長有慶・新座主の紹介」
○ 2006年7月21日「靖国神社と仏教の死生観」
○ 2006年6月21日「捨身ヶ嶽で真魚を見た」
○ 2006年5月21日「キリスト教と仏教と「ダ・ヴィンチ・コード」」
○ 2006年4月21日「最澄と空海」
○ 2005年9月23日「お彼岸といえば…」
○ 2005年7月21日「お盆といえば…」
○ 2005年4月21日「ねがはくは花の下にて春死なん…」
○ 2005年3月21日「ライブドアとフジテレビと仏教思想」
○ 2005年1月21日「…車をひく(牛)の足跡に車輪がついて行くように」
○ 2004年8月21日「…私は、知らないから、そのとおりにまた、知らないと思っている」
○ 2004年7月21日「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい。」
○ 2004年6月23日「文殊の利剣は諸戯(しょけ)を絶つ」
○ 2004年5月21日「世界に一つだけの花一人一人違う種を持つ…」(SMAP『世界に一つだけの花』)
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○ 2003年12月21日「あたかも、母が己が独り子を命を賭けて護るように…」
○ 2003年11月21日「…蒼生の福を増せ」
○ 2003年10月21日「ありがたや … (同行二人御詠歌)」
○ 2003年9月21日「観自在菩薩 深い般若波羅蜜多を行ずるの時 … 」
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