仏 教 と現 代

永劫に残る核のごみ 〜ドイツツアーに参加して〜

 奈良県五条市の転法輪寺が発行する『転法輪』が、私の原稿を掲載してくださいました。内容的には前月のコラムと重なる部分が多いのですが、せっかくですので、そのまま転載させていただきます。 

 東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から、一年になります。日本では今、ほとんどの原発が止まり、「電力不足」と言われながらも実際は電気が足りている様子です。

 しかし、これまで原発で利益を上げてきた人々は、引き続き原発を動かし続けようとしています。

 一方、ドイツは、福島原発事故の直後に「脱原発」を決定し、2022年までに全原発を廃炉にすることを決めています。

 私は今年1月、そのドイツへ行ってきました。日本版・緑の党の結成をめざす「みどりの未来」という団体が企画したドイツツアー「脱原発への道」に参加し、自然エネルギーに取り組む人々、緑の党の政治家、そして放射性廃棄物処分場の予定地や候補地を訪れたのです。

 私が特に印象に残ったのは、放射性廃棄物処分場でした。

 中・低レベル放射性廃棄物の処分地「コンラート」(=写真)は、元は鉄鉱石の鉱山だった地下1000メートルにある空洞を利用して、原発で使われた服や建材など、放射能に汚染されたごみを捨てるための場所です。

 説明の中で、「ここで30万年保管すれば自然放射線と同等のレベルになる」「地層は数百万年動かない」などと、途方もない数字が並べられました。仏教では、天女の羽衣が岩をこすって岩がなくなるほどの長さを「劫」と呼びます。まさに「永劫」にわたって保管し続けなければならない、それが「核のごみ」なのです。

 中・低レベルですらこの厳重さ。高レベル放射性廃棄物はどうすればよいと言うのでしょう。実はドイツでも、その処分地はまだ決まっていません。候補地の「ゴアレーベン」では大規模な反対運動があり、適地かどうかは科学的にも疑問が出ています。

 翻って、日本は地震大国です。しかもプレートの境界に位置するため、何万年も動かない地層など存在しません。それなのに、原発で核分裂が起きるたびに、高レベル放射性廃棄物が次々に発生しているのです。

 「原発はトイレのないマンション」とも言われますが、廃棄物の捨て場所を考えることなく原発を動かし続けることは、次の世代に大きなツケを残します。そうでなくても、一たび事故が起きれば、放射能を浴びた人は「ヒバクシャ」となってしまうのが原発です。

 釈尊は因果の法を説きましたが、私たちがそれを理解していなかったこと、その結果の福島原発の大惨事であることは、いくら懺悔しても足りることはないでしょう。原発を続けるのであれば、せめて日本国内に、永劫に動かない地層を見つけるほかありません。そんな場所がないことは、皆知っているのですが。

2012年3月21日 坂田光永


この原稿は、2012年3月発行『転法輪』に掲載されました。



《バックナンバー》

○ 2012年2月21日「from 3.11 私たちは変わったか」
○ 2012年1月21日「汚い清盛、高野山から厳島へ」
○ 2011年12月22日「人は土から離れては生きていけないのよ」
○ 2011年11月21日「鞆の浦の古さと新しさ」
○ 2011年10月21日「永平寺の懺悔と「もんじゅ」」
○ 2011年9月21日「日東第一形勝300年に学ぶ」
○ 2011年8月28日「脱原発・脱石油を誓う2011年の9.11」
○ 2011年7月28日「フクシマからヒロシマへ、ヒロシマから世界へ」
○ 2011年6月21日「脱原発の、その先へ」
○ 2011年5月21日「原発のうてもえーじゃない」
○ 2011年4月21日「『3分の1は原子力』は本当か?」
○ 2011年3月21日「千年前の聖たちのように」
○ 2011年2月21日「この不確実で不完全な世界」
○ 2011年1月21日「小さなタイガーマスクが増えること」
○ 2011年1月1日「平和の灯を高野山へ」
○ 2010年12月21日「台湾ダーランド」
○ 2010年11月21日「千人の垢を流して見えるもの」
○ 2010年10月21日「いのちの多様性」
○ 2010年8月21日「奈良、歴史『再発見』」
○ 2010年7月21日「身延山と日蓮」
○ 2010年6月21日「ボクも坊さん。」
○ 2010年5月21日「仏法は汝らの内にあり」
○ 2010年4月23日「葬式は要らないか」
○ 2010年3月21日「再びオウム事件と仏教について」
○ 2010年2月21日「立松和平さんの祈り」
○ 2010年1月1日「排他的、独善的な仏教にならないために」
○ 2009年12月21日「『JIN』のようにはいかないもので」
○ 2009年11月21日「排他的?独善的!」
○ 2009年10月21日「アフガンに緑の大地を」
○ 2009年9月23日「笑いとため息」
○ 2009年7月21日「臓器移植と『いのち』の定義 続編」
○ 2009年6月21日「臓器移植と『いのち』の定義」
○ 2009年5月21日「『地救』のために何ができるか」
○ 2009年4月21日「アイアム・ブッディズム・プリースト」
○ 2009年3月21日「おくりびとと『死のケガレ』」
○ 2009年1月21日「『伝道師』としてのオバマ」
○ 2009年1月1日「空と海をつなぐ」
○ 2008年10月28日「会津をめぐる」
○ 2008年9月21日「神秘主義」
○ 2008年7月21日「グリーフレス中学生」
○ 2008年5月21日「祈りと行動と」
○ 2008年4月21日「聖火の“燃料”」
○ 2008年2月28日「妖精に出会う」
○ 2008年1月21日「千の風になるとして」
○ 2007年10月21日「阿字の子が阿字の古里…」
○ 2007年8月21日「目覚めよ密教!」
○ 2007年6月21日「昔のお寺がそのままに」
○ 2007年4月21日「空海の夢」
○ 2007年3月21日「無量光明」
○ 2007年2月21日「よみがえる神話」
○ 2007年1月1日「伊太利亜国睡夢譚」
○ 2006年11月21日「仏教的にありえない?」
○ 2006年10月23日「天使と悪魔 〜宗教と科学をめぐる旅〜」
○ 2006年9月21日「9/11から5年」
○ 2006年8月23日「松長有慶・新座主の紹介」
○ 2006年7月21日「靖国神社と仏教の死生観」
○ 2006年6月21日「捨身ヶ嶽で真魚を見た」
○ 2006年5月21日「キリスト教と仏教と「ダ・ヴィンチ・コード」」
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○ 2005年9月23日「お彼岸といえば…」
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○ 2004年6月23日「文殊の利剣は諸戯(しょけ)を絶つ」
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○ 2004年4月21日「抱いたはずが突き飛ばして…」(ミスターチルドレン『掌』)
○ 2004年3月23日「縁起を見る者は、法を見る。法を見る者は、縁起を見る」
○ 2004年2月21日「…犀(さい)の角のようにただ独り歩め」
○ 2004年1月21日「現代の世に「釈風」を吹かせたい ―心の相談員養成講習会を受講して―」
○ 2003年12月21日「あたかも、母が己が独り子を命を賭けて護るように…」
○ 2003年11月21日「…蒼生の福を増せ」
○ 2003年10月21日「ありがたや … (同行二人御詠歌)」
○ 2003年9月21日「観自在菩薩 深い般若波羅蜜多を行ずるの時 … 」
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