仏 教 と現 代

増蒼生福

 何十年ぶり、もしかしたら初めて(?)書き初めをしました。もともとは宮中の行事である「吉書始」(きっしょはじめ)が江戸時代に庶民に広まり、1月2日に一年の祈願を書くようになったそうです。その背景には、やはり紙の普及など、江戸時代の庶民生活の充実があったと思います。

 私の場合、1月2日よりもずっと遅れて1月15日に、地元の中小企業経営者の皆さんにまじって行いました。「一年の抱負をしたためる」というテーマで、私以外の方は、「覚悟」「勉強」「行動」などの経営者らしい言葉や、「生きてるだけで丸儲け」など面白いフレーズを書かれていました。

 そんな中で、私が書いたのは「増蒼生福」。「蒼生の福を増せ」という文言で、およそ1200年前、弘法大師空海が中国で恵果(けいか)阿闍梨から真言密教を伝授された際に、大師が恵果阿闍梨からいただいた言葉でした。


今即ち授法の在る有り。
経像の功畢(おわん)ぬ。
早く郷国に帰って
以て国家に奉り
天下に流布して
蒼生(そうせい)の福(さいわい)を増せ

  (『性霊集』)


 蒼生とは、一般の人々、民衆、というような意味です。人々の福を増やしなさい。それが恵果阿闍梨が大師に与えた課題でした。

 以前のこのコーナーでも紹介していますが(蒼生の福を増せ)、命が尽きようとする恵果阿闍梨は、最後の力を振り絞って大師に教えを授け、その直後に亡くなられます。いわば遺言であり、大師にとっては、その後の行動原理になります。

 現代の世で、「蒼生の福を増す」ということは、何を意味するのか。正解はないかもしれませんが、私は一人の真言宗僧侶として「恵果阿闍梨から私への課題」だと思って、年の初めに刻んでおこうと思いました。

2013年1月21日 坂田光永




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