仏 教 と現 代

上高地(光明院檀徒・藤井和子さん撮影)

線香に焦らず火をつける

  「急がば回れ」という諺があります。

 暑い中、お盆のお墓参りの光景を見ていて、こんな2つの家族を目撃しました。

 線香をお供えするとき、暑いから早く済まそうとして、束になっている線香にまとめてライターを当てて、なかなか火がつかないで焦っている家族。一方、もう1つの家族は、線香の束をほどいて小分けにし、数本ずつ火をつけていきます。

 この光景を見ながら、私はなぜか、この2つの家族は、日本の社会の選択肢を端的に表しているような気がしました。

 近ごろ日本では、スピードや競争力が今まで以上に求められています。しかし、その成果が期待されたほど出ているようには見えません。むしろ、他との競争に負けないようにと焦るあまり、かえって投下したエネルギーが無駄に終わることがあります。そして成果が出ないイライラが、さらなる焦りと無駄を生むという悪循環が起きています。

 そういう焦りの充満した競争社会では、少しずつでも着実に取り組んでいる人々は、「遅い」「甘い」と決めつけられがちです。でも、本当に成果を出すのはどちらかと言えば、実はこういう人々であることが多いでしょう。

 線香でいえば、小分けにして数本ずつ火をつけていくほうが、結果的に早く終わります。1本1本の線香が火に触れるぶん、早いわけです。まさに「急がば回れ」です。

 このご時世、クオリティを下げずにいい結果を出していくためには、はた目から「遅い」「甘い」と言われても動じないだけの、相当な智慧と胆力が必要です。

 線香も、周りから「暑い」「早くしろ」と言われても、焦らず小分けにして、少しずつ火をつけていきましょう。変に焦らないほうが、和気藹々とした穏やかなお墓参りになるでしょう。

2013年8月21日 坂田光永




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