仏 教 と現 代

2014年2月8日の雪の様子(藤井和子さん撮影)暦の上ではジャニュアリー


 1月31日は、中国や台湾でいうところの「春節」、つまり旧暦の正月元旦でした。日本では「旧正月」という言い方もありますね。

 常々、「暦が変わるって大変だろうなぁ」と漠然と想像してはいましたが、「なんで旧暦から新暦に変わったか知ってる?」と聞かれて、初めてその理由を知りました。そして、いささか驚きを禁じえませんでした。

 明治5年(1872年)まで、日本では「旧暦」が使われていました。これは太陰太陽暦といわれるもので、月の動きに合わせて「1月」「2月」を定めるとともに、太陽の動きに合わせて立春・夏至・当時などの「二十四節季」を定め、その両方で月日の経過を表していました。

 それが、明治5年の11月9日、突然「太陰暦ヲ廃シ太陽暦ヲ頒行ス」が発布されます。急きょ、明治5年12月3日を、「明治6年1月1日」とする新暦への移行が決まったのです。

 あまりに急な決定に、世の中は大混乱。特に暦を販売する業者は大打撃でした。逆に、新しい暦は大ベストセラーとなりましたが、その製作者は、あの福沢諭吉だったそうです。

 さて、気になる改暦の理由です。

 普通なら、「脱亜入欧を進める明治政府なのだから、欧米標準の暦に変えたは当然」と想像しますが、それならもっと着実に準備するはずです。

 ですが、その当時、参議を務めていた大隈重信の回顧録によると、「政府の財政状況の逼迫」が改暦の理由だというのです。

 明治6年は「閏月」があるため、1年が13か月でした。そのため、月給制に移行したばかりの公務員への給料を、年13回払わなければいけませんでした。そこで、「新暦を導入してしまえば閏月はなくなり、12か月分の給料で済む」「明治5年も、12月が2日しかないので、11か月分の給料で済む」ということになったのです。なんとも強引で打算的な改暦だったわけです。

 古来、「時をつかさどる」ということは、世界を支配するということでした。中国で皇帝や王朝が代わるたびに「改元」が行われたのは、皇帝(王朝)が世界を支配しているということを示すためです。西暦は、紀元前をB.C.(Befor Christ=キリスト以前)というように、キリストの誕生を基準にしており、キリスト教的世界観に基づく暦です。日本の改暦は公務員の給料をケチるために断行されました。これって、「おカネ」が日本を支配していることの表れだったりして(笑)

 今では新暦が当たり前となっており、月の動きなど単なる鑑賞としか見られていません。しかし、大半が漁業や農業など自然との関わりが深い暮らしをしていた江戸時代までは、旧暦は実に合理的な暦だったのではないかと思います。日付だけで、今日が満月か新月かを知ることができるからです。月の動きは、潮の満ち引きだけでなく、生き物の生態系や、あるいは人間の身体にも、少なからぬ影響を与えているのではないでしょうか。そうであれば、現代でも旧暦の存在価値はゼロとは言えないだろうと思います。

 新暦2月21日は、旧暦ではまだ1月。「そうか、暦の上ではジャニュアリーなのか」と思って本編のタイトルをつけましたが、よく考えたらジャニュアリーは西暦(新暦)でした。まぁまぁ、ご愛嬌ということで。

2014年2月21日 坂田光永




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