仏 教
 と現 代

星籠の海

 福山市出身のミステリー作家・島田荘司さんの作品『星籠(せいろ)の海』が映画化され、6月に封切りとなりました。福山市制100周年記念として制作されたこの映画は、全編福山ロケで、しかも物語の舞台そのものも福山というから驚きです。

 何より驚いたのは、そのストーリー。歴史好きな人にとっては、瀬戸内海と言えば戦国時代の「村上水軍」であり、福山藩と言えば黒船来航時の老中首座「阿部正弘」だと思いますが、そんな戦国と幕末と現代とを、大胆な三角形で結んでしまうという空前のミステリー。しかも、万葉から潮待ちの港として栄えた鞆の浦が舞台とあっては、もう期待せずにいられません。

 俳優陣もなかなか豪華です。『あさが来た』で人気沸騰の玉木宏が天才脳学者ミタライを演じるほか、躍進中の広瀬アリス、個人的に好きな要潤や吉田栄作らが出演していて、監督が大好きな『相棒』シリーズの和泉聖治とくれば、もはやローカル感はみじんもありません。できればこのまま、「福山市制100周年記念作品」だとは気づかれることなく、全国の人に見ていただきたいものです。

 講談社の特設ページには島田さん自身の解説が載っています。これが実に面白い。ここだけの話、私は島田作品を一度も読み終えていないのですが(挑戦はしたんです。『占星術殺人事件』に、挑戦はしたんですが、凡人脳がついて行かなくて挫折しました)、しかし『星籠の海』はなんだか読めそうな気がしてきました。

*島田荘司特別寄稿「海と人と、星のロマン」
 http://kodansha-novels.jp/1310/shimadasoji/kikou1.html

 とはいえ、100周年でお祝いムードの福山市の姿勢には毎回、首をひねることばかりです。鞆の浦を埋め立てて潰そうとしていたくせに、ドラマや映画を誘致して「鞆はすごい」と宣伝する。福山城外堀遺構という歴史的な遺産を破壊して福山駅前に地下送迎場を造っておいて、「何もないとは言わせない」という奇天烈なキャッチコピーを駅前に貼りまくる。今回の映画制作も数千万円の予算を投じるようですが、いったいどういう思惑なんだか。

 こういう支離滅裂な福山市行政の矛盾を乗り越え、全国の人々が福山・鞆の歴史的価値に触れる機会になってほしいと願うばかりです。

2016年5月21日 坂田光永




《バックナンバー》

○ 2016年4月21日「花まつりの対機説法」
○ 2016年3月21日「徳川家の菩提寺・増上寺と厭離穢土」
○ 2016年2月21日「阿弥陀さん保存修理事業が成満」
○ 2016年1月21日「ミッセイさんと仏教のアンビバレント」
○ 2016年1月1日「悟空の年」
○ 2015年11月21日「『ボクは坊さん。』が映画化」
○ 2015年10月21日「寺院消滅」
○ 2015年9月21日「安保法制と仏教界」
○ 2015年8月21日「日本霊性論」
○ 2015年7月21日「隠す言葉、明かす言葉」
○ 2015年5月21日「太古からのエネルギー」
○ 2015年4月21日「1200年という『ものさし』」
○ 2015年3月21日「天上天下唯我独尊」
○ 2015年2月21日「私はシャーリプトラ」
○ 2014年12月21日「下山する勇気」
○ 2014年10月21日「御嶽山と川内原発」
○ 2014年8月21日「天皇と日本人(下)」
○ 2014年7月21日「天皇と日本人(上)」
○ 2014年6月21日「地獄へようこそ」
○ 2014年5月21日「死は自然なもの」
○ 2014年3月21日「土曜授業は仏教の衰退を招く」
○ 2014年2月21日「暦の上ではジャニュアリー」
○ 2014年1月21日「『馬力』というものさし」
○ 2013年12月21日「高野山にロックフェラー」
○ 2013年11月21日「道徳を教科にするかどうか、自由に話し合いなさい」
○ 2013年8月21日「線香に焦らず火をつける」
○ 2013年7月21日「チャランケの精神で」
○ 2013年6月23日「会津墓地に届くか念仏の声」
○ 2013年5月21日「色彩を持たない多崎つくると、彼の色彩の話」
○ 2013年4月23日「福島から来た『吊るし雛』」
○ 2013年3月21日「三十三間堂の壮観」
○ 2013年2月21日「星に願いを」
○ 2013年1月21日「増蒼生福」
○ 2013年1月1日「我等懺悔す無始よりこのかた」
○ 2012年10月21「三国伝来」
○ 2012年8月23日「いじめを止めようとしている君へ」
○ 2012年6月21日「比叡山の静謐」
○ 2012年5月21日「時間を守る」
○ 2012年4月21日「五大に皆響きあり」
○ 2012年3月21日「永劫に残る核のごみ 〜ドイツツアーに参加して〜」
○ 2012年2月21日「from 3.11 私たちは変わったか」
○ 2012年1月21日「汚い清盛、高野山から厳島へ」
○ 2011年12月22日「人は土から離れては生きていけないのよ」
○ 2011年11月21日「鞆の浦の古さと新しさ」
○ 2011年10月21日「永平寺の懺悔と「もんじゅ」」
○ 2011年9月21日「日東第一形勝300年に学ぶ」
○ 2011年8月28日「脱原発・脱石油を誓う2011年の9.11」
○ 2011年7月28日「フクシマからヒロシマへ、ヒロシマから世界へ」
○ 2011年6月21日「脱原発の、その先へ」
○ 2011年5月21日「原発のうてもえーじゃない」
○ 2011年4月21日「『3分の1は原子力』は本当か?」
○ 2011年3月21日「千年前の聖たちのように」
○ 2011年2月21日「この不確実で不完全な世界」
○ 2011年1月21日「小さなタイガーマスクが増えること」
○ 2011年1月1日「平和の灯を高野山へ」
○ 2010年12月21日「台湾ダーランド」
○ 2010年11月21日「千人の垢を流して見えるもの」
○ 2010年10月21日「いのちの多様性」
○ 2010年8月21日「奈良、歴史『再発見』」
○ 2010年7月21日「身延山と日蓮」
○ 2010年6月21日「ボクも坊さん。」
○ 2010年5月21日「仏法は汝らの内にあり」
○ 2010年4月23日「葬式は要らないか」
○ 2010年3月21日「再びオウム事件と仏教について」
○ 2010年2月21日「立松和平さんの祈り」
○ 2010年1月1日「排他的、独善的な仏教にならないために」
○ 2009年12月21日「『JIN』のようにはいかないもので」
○ 2009年11月21日「排他的?独善的!」
○ 2009年10月21日「アフガンに緑の大地を」
○ 2009年9月23日「笑いとため息」
○ 2009年7月21日「臓器移植と『いのち』の定義 続編」
○ 2009年6月21日「臓器移植と『いのち』の定義」
○ 2009年5月21日「『地救』のために何ができるか」
○ 2009年4月21日「アイアム・ブッディズム・プリースト」
○ 2009年3月21日「おくりびとと『死のケガレ』」
○ 2009年1月21日「『伝道師』としてのオバマ」
○ 2009年1月1日「空と海をつなぐ」
○ 2008年10月28日「会津をめぐる」
○ 2008年9月21日「神秘主義」
○ 2008年7月21日「グリーフレス中学生」
○ 2008年5月21日「祈りと行動と」
○ 2008年4月21日「聖火の“燃料”」
○ 2008年2月28日「妖精に出会う」
○ 2008年1月21日「千の風になるとして」
○ 2007年10月21日「阿字の子が阿字の古里…」
○ 2007年8月21日「目覚めよ密教!」
○ 2007年6月21日「昔のお寺がそのままに」
○ 2007年4月21日「空海の夢」
○ 2007年3月21日「無量光明」
○ 2007年2月21日「よみがえる神話」
○ 2007年1月1日「伊太利亜国睡夢譚」
○ 2006年11月21日「仏教的にありえない?」
○ 2006年10月23日「天使と悪魔 〜宗教と科学をめぐる旅〜」
○ 2006年9月21日「9/11から5年」
○ 2006年8月23日「松長有慶・新座主の紹介」
○ 2006年7月21日「靖国神社と仏教の死生観」
○ 2006年6月21日「捨身ヶ嶽で真魚を見た」
○ 2006年5月21日「キリスト教と仏教と「ダ・ヴィンチ・コード」」
○ 2006年4月21日「最澄と空海」
○ 2005年9月23日「お彼岸といえば…」
○ 2005年7月21日「お盆といえば…」
○ 2005年4月21日「ねがはくは花の下にて春死なん…」
○ 2005年3月21日「ライブドアとフジテレビと仏教思想」
○ 2005年1月21日「…車をひく(牛)の足跡に車輪がついて行くように」
○ 2004年8月21日「…私は、知らないから、そのとおりにまた、知らないと思っている」
○ 2004年7月21日「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい。」
○ 2004年6月23日「文殊の利剣は諸戯(しょけ)を絶つ」
○ 2004年5月21日「世界に一つだけの花一人一人違う種を持つ…」(SMAP『世界に一つだけの花』)
○ 2004年4月21日「抱いたはずが突き飛ばして…」(ミスターチルドレン『掌』)
○ 2004年3月23日「縁起を見る者は、法を見る。法を見る者は、縁起を見る」
○ 2004年2月21日「…犀(さい)の角のようにただ独り歩め」
○ 2004年1月21日「現代の世に「釈風」を吹かせたい ―心の相談員養成講習会を受講して―」
○ 2003年12月21日「あたかも、母が己が独り子を命を賭けて護るように…」
○ 2003年11月21日「…蒼生の福を増せ」
○ 2003年10月21日「ありがたや … (同行二人御詠歌)」
○ 2003年9月21日「観自在菩薩 深い般若波羅蜜多を行ずるの時 … 」
○ 2003年8月21日「それ仏法 遙かにあらず … 」



高野山真言宗 遍照山 光明院ホームページへ