仏 教
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結縁灌頂 成満御礼

 10月7日(土)〜9日(月)の3日間にわたる「結縁灌頂」(けちえんかんじょう)が、無事に成満いたしました。ご参加、ご協力いただいた皆様に心から御礼申し上げます。

 備後地方の真言宗青年僧のつどい「即身会」の創立五十周年記念事業として開催した今回の結縁灌頂は、約2年前から計画を立て、準備に取り組んできました。高野山金剛峯寺からは、数百点にのぼる法具や掛け軸、屏風などをお借りしました。会場となる明王院さんには、国宝の本堂をはじめ貴重なお堂をいくつも使わせていただきました。そして何より、7日197人、8日476人、9日257人の計930人もの方が入壇されたことは、主催する私たちも驚きました。こんな地方の片田舎で千人近くの方が関心を持って足を運んでくださったことに、関係者一同目を見張っています。

 結縁灌頂とは、曼荼羅にお花を投じて仏様とご縁を結び(結縁)、阿闍梨様から頭に水をそそいでもらう(灌頂)という密教の儀式です。弘法大師が唐(中国)にわたり、恵果阿闍梨から真言密教の伝授を受けたときの儀式も灌頂でした。このたび結縁灌頂を受けていただいた方は、1200年以上前に弘法大師が得たのとほぼ同じ体験をしていただいたことになります。

 また灌頂に先立って「庭儀結縁灌頂三昧耶戒」(ていぎけちえんかんじょうさんまやかい)という法会も執り行いました。これは灌頂の大阿闍梨が灌頂を受ける人(受者)の代表である乞戒師(こっかいし)に「三昧耶戒」という戒律を授ける作法を高度に儀式化したものです。加えて屋外で声高らかに読経をする「庭儀」も行われます。天候不順な時期でしたが、7日の朝、庭儀を行う時間帯だけ奇跡的に雨が上がりました。庭儀が終わって再び降り出した雨を見ながら、神仏の加護を感じた人もいるのではないでしょうか。

 灌頂を受けていただいた方々からは、口々に「有り難かった」「心が洗われたようだ」などの感想をいただきました。中には涙を流して感動する方も。逆に長時間にわたる作法で疲れを出された方もおられたでしょう。よくぞ頑張ってくださったと感謝の気持ちでいっぱいです。

 さて、このたびの結縁灌頂は「金剛界」の曼荼羅で行われました。結縁灌頂に用いられる曼荼羅には金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅があります。はたして10年後に「胎蔵界」の結縁灌頂が行われるかどうかは未定ですが、もしそうなった折には、またぜひお参りいただきたく思います。

※写真=菅原功次さん(フォトグラファー)

2017年10月21日 坂田光永





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