仏 教 と現 代
佛光寺の秘密
先日、京都の佛光寺をお参りしてきました。というより、主たる目的は佛光寺の境内にある「D&Department KYOTO」というカフェでランチをすることでして、まぁ言ってみればついでの参拝でした。
ただ、以前からずっと佛光寺は気になる存在でした。というのは、いくつかある浄土真宗の本山の中で、開宗当初は圧倒的な勢力を誇っていたのが佛光寺だったと聞いたからです。今ではすっかり小さくなり、浄土真宗イコール東西本願寺というイメージが定着してしまっています。これはいったいどんな歴史が隠されているんでしょうか。
佛光寺が出しているパンフレットにはお寺の歴史が載っていますが、上記の回答になるようなことは何一つ書かれていません。ただ、こんなふうにだけ記されています。
「元応二年(1320)には、寺基を山科から今比叡汁谷(現・京都国立博物館あたり)に移しました」
「天正十四年(1586)には豊臣秀吉の要請により、寺基を五条坊門(現在地)に移しました」
佛光寺は以前は現在の京都国立博物館あたりに構えていたけれど、豊臣秀吉の要請で現在地(烏丸五条)に引っ越したよ、というのです。でも引っ越しの理由を書いていませんね。そこで別の資料を探してみると、こんなことが分かりました。
現在の京都国立博物館の付近一帯は、豊臣政権の頃までは佛光寺の敷地でした。1586年、秀吉は唐突に「京都に大仏を造ろう」と言い出します。当初は「遣迎院」というお寺を予定地としたのですが、遣迎院の引っ越し途中で予定地が変更になり、新たな場所として佛光寺に白羽の矢が立ちました。ちなみに、このおかげで遣迎院は南北に分立してしまいます。そして佛光寺も引っ越すことになり、現在の小さな場所に押し込められることになったわけです。全てではないでしょうけれど、このことが佛光寺衰退の原因の一つといっていいかもしれません。
ところが京都大仏のほうはというと、その後に地震や火災でくり返し失われ、そのたびに豊臣家は再建計画に苦しみます。しまいには梵鐘の銘文に書かれた「国家安康」の文字が徳川家の逆鱗に触れて、大坂冬の陣が勃発。続く大坂夏の陣で豊臣家は滅亡してしまうのです。さらに明治維新の際には土地の大部分が接収されて京都国立博物館などが建ち、ついに大仏再建は行われないまま現在に至っています。
まさか、豊臣秀吉が佛光寺を無理やり移転させたために、豊臣家そのものが滅亡してしまったなんてことは… もちろんそんなのは妄想ですし、すべての衆生を救う阿弥陀如来の教えにも反しています。ですが、そんなことを考えてしまいたくなるほど、豊臣家の顛末は尋常ではありません。おお、なんまんだぶ、なんまんだぶ。
ちなみに、「D&Department KYOTO」のランチは、自然派の優しい味でした。また行きたいと思います。
2019年9月21日 坂田光永
《バックナンバー》
○ 2019年8月21日「御代替わり儀礼の正体」
○ 2019年7月21日「お骨は産廃?」
○ 2019年6月21日「即位灌頂」
○ 2019年5月21日「一遍聖絵と時宗の名宝」
○ 2019年4月21日「中寿」
○ 2019年3月21日「お墓の歴史」
○ 2019年2月21日「死にたい気持ちと向き合う」
○ 2019年1月21日「梅原猛と空海」
○ 2018年12月21日「書道家・金澤翔子さん」
○ 2018年11月21日「嵯峨天皇と般若心経」
○ 2018年10月21日「仏像と日本人」
○ 2018年9月21日「明治150年というけれど」
○ 2018年8月21日「オウム事件は終わらない」
○ 2018年7月21日「自然の摂理」
○ 2018年6月21日「葬式仏教正当論」
○ 2018年5月21日「相撲と女人禁制」
○ 2018年4月21日「即身会 歩みとこれから」
○ 2018年3月21日「お寺の未来」
○ 2018年2月21日「『空海 KU-KAI』」
○ 2018年1月21日「犬〜異界の声を聴く〜」
○ 2017年12月21日「井伊谷と龍潭寺」
○ 2017年11月21日「『教団X』」
○ 2017年10月21日「結縁灌頂 成満御礼」
○ 2017年9月21日「方舟と大乗」
○ 2017年8月21日「和編鐘の響き」
○ 2017年7月21日「中村敦夫『線量計が鳴る』」
○ 2017年6月21日「築地市場と築地本願寺」
○ 2017年5月21日「豊臣家を滅ぼしたあの鐘銘」
○ 2017年4月21日「愛国と信仰」
○ 2017年3月21日「氷川神社と喜多院」
○ 2017年2月21日「トランプ大統領と福音派の距離感」
○ 2017年1月21日「共命の鳥」
○ 2016年12月21日「日光東照宮と輪王寺」
○ 2016年11月21日「天皇の生前退位は『仏教の弊害』?」
○ 2016年10月21日「追悼、日野西眞定先生」
○ 2016年9月21日「駆込み女と駆出し男」
○ 2016年8月21日「お盆と神道」
○ 2016年7月21日「亡国の相」
○ 2016年5月21日「星籠の海」
○ 2016年4月21日「花まつりの対機説法」
○ 2016年3月21日「徳川家の菩提寺・増上寺と厭離穢土」
○ 2016年2月21日「阿弥陀さん保存修理事業が成満」
○ 2016年1月21日「ミッセイさんと仏教のアンビバレント」
○ 2016年1月1日「悟空の年」
○ 2015年11月21日「『ボクは坊さん。』が映画化」
○ 2015年10月21日「寺院消滅」
○ 2015年9月21日「安保法制と仏教界」
○ 2015年8月21日「日本霊性論」
○ 2015年7月21日「隠す言葉、明かす言葉」
○ 2015年5月21日「太古からのエネルギー」
○ 2015年4月21日「1200年という『ものさし』」
○ 2015年3月21日「天上天下唯我独尊」
○ 2015年2月21日「私はシャーリプトラ」
○ 2014年12月21日「下山する勇気」
○ 2014年10月21日「御嶽山と川内原発」
○ 2014年8月21日「天皇と日本人(下)」
○ 2014年7月21日「天皇と日本人(上)」
○ 2014年6月21日「地獄へようこそ」
○ 2014年5月21日「死は自然なもの」
○ 2014年3月21日「土曜授業は仏教の衰退を招く」
○ 2014年2月21日「暦の上ではジャニュアリー」
○ 2014年1月21日「『馬力』というものさし」
○ 2013年12月21日「高野山にロックフェラー」
○ 2013年11月21日「道徳を教科にするかどうか、自由に話し合いなさい」
○ 2013年8月21日「線香に焦らず火をつける」
○ 2013年7月21日「チャランケの精神で」
○ 2013年6月23日「会津墓地に届くか念仏の声」
○ 2013年5月21日「色彩を持たない多崎つくると、彼の色彩の話」
○ 2013年4月23日「福島から来た『吊るし雛』」
○ 2013年3月21日「三十三間堂の壮観」
○ 2013年2月21日「星に願いを」
○ 2013年1月21日「増蒼生福」
○ 2013年1月1日「我等懺悔す無始よりこのかた」
○ 2012年10月21「三国伝来」
○ 2012年8月23日「いじめを止めようとしている君へ」
○ 2012年6月21日「比叡山の静謐」
○ 2012年5月21日「時間を守る」
○ 2012年4月21日「五大に皆響きあり」
○ 2012年3月21日「永劫に残る核のごみ 〜ドイツツアーに参加して〜」
○ 2012年2月21日「from 3.11 私たちは変わったか」
○ 2012年1月21日「汚い清盛、高野山から厳島へ」
○ 2011年12月22日「人は土から離れては生きていけないのよ」
○ 2011年11月21日「鞆の浦の古さと新しさ」
○ 2011年10月21日「永平寺の懺悔と「もんじゅ」」
○ 2011年9月21日「日東第一形勝300年に学ぶ」
○ 2011年8月28日「脱原発・脱石油を誓う2011年の9.11」
○ 2011年7月28日「フクシマからヒロシマへ、ヒロシマから世界へ」
○ 2011年6月21日「脱原発の、その先へ」
○ 2011年5月21日「原発のうてもえーじゃない」
○ 2011年4月21日「『3分の1は原子力』は本当か?」
○ 2011年3月21日「千年前の聖たちのように」
○ 2011年2月21日「この不確実で不完全な世界」
○ 2011年1月21日「小さなタイガーマスクが増えること」
○ 2011年1月1日「平和の灯を高野山へ」
○ 2010年12月21日「台湾ダーランド」
○ 2010年11月21日「千人の垢を流して見えるもの」
○ 2010年10月21日「いのちの多様性」
○ 2010年8月21日「奈良、歴史『再発見』」
○ 2010年7月21日「身延山と日蓮」
○ 2010年6月21日「ボクも坊さん。」
○ 2010年5月21日「仏法は汝らの内にあり」
○ 2010年4月23日「葬式は要らないか」
○ 2010年3月21日「再びオウム事件と仏教について」
○ 2010年2月21日「立松和平さんの祈り」
○ 2010年1月1日「排他的、独善的な仏教にならないために」
○ 2009年12月21日「『JIN』のようにはいかないもので」
○ 2009年11月21日「排他的?独善的!」
○ 2009年10月21日「アフガンに緑の大地を」
○ 2009年9月23日「笑いとため息」
○ 2009年7月21日「臓器移植と『いのち』の定義 続編」
○ 2009年6月21日「臓器移植と『いのち』の定義」
○ 2009年5月21日「『地救』のために何ができるか」
○ 2009年4月21日「アイアム・ブッディズム・プリースト」
○ 2009年3月21日「おくりびとと『死のケガレ』」
○ 2009年1月21日「『伝道師』としてのオバマ」
○ 2009年1月1日「空と海をつなぐ」
○ 2008年10月28日「会津をめぐる」
○ 2008年9月21日「神秘主義」
○ 2008年7月21日「グリーフレス中学生」
○ 2008年5月21日「祈りと行動と」
○ 2008年4月21日「聖火の“燃料”」
○ 2008年2月28日「妖精に出会う」
○ 2008年1月21日「千の風になるとして」
○ 2007年10月21日「阿字の子が阿字の古里…」
○ 2007年8月21日「目覚めよ密教!」
○ 2007年6月21日「昔のお寺がそのままに」
○ 2007年4月21日「空海の夢」
○ 2007年3月21日「無量光明」
○ 2007年2月21日「よみがえる神話」
○ 2007年1月1日「伊太利亜国睡夢譚」
○ 2006年11月21日「仏教的にありえない?」
○ 2006年10月23日「天使と悪魔 〜宗教と科学をめぐる旅〜」
○ 2006年9月21日「9/11から5年」
○ 2006年8月23日「松長有慶・新座主の紹介」
○ 2006年7月21日「靖国神社と仏教の死生観」
○ 2006年6月21日「捨身ヶ嶽で真魚を見た」
○ 2006年5月21日「キリスト教と仏教と「ダ・ヴィンチ・コード」」
○ 2006年4月21日「最澄と空海」
○ 2005年9月23日「お彼岸といえば…」
○ 2005年7月21日「お盆といえば…」
○ 2005年4月21日「ねがはくは花の下にて春死なん…」
○ 2005年3月21日「ライブドアとフジテレビと仏教思想」
○ 2005年1月21日「…車をひく(牛)の足跡に車輪がついて行くように」
○ 2004年8月21日「…私は、知らないから、そのとおりにまた、知らないと思っている」
○ 2004年7月21日「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい。」
○ 2004年6月23日「文殊の利剣は諸戯(しょけ)を絶つ」
○ 2004年5月21日「世界に一つだけの花一人一人違う種を持つ…」(SMAP『世界に一つだけの花』)
○ 2004年4月21日「抱いたはずが突き飛ばして…」(ミスターチルドレン『掌』)
○ 2004年3月23日「縁起を見る者は、法を見る。法を見る者は、縁起を見る」
○ 2004年2月21日「…犀(さい)の角のようにただ独り歩め」
○ 2004年1月21日「現代の世に「釈風」を吹かせたい ―心の相談員養成講習会を受講して―」
○ 2003年12月21日「あたかも、母が己が独り子を命を賭けて護るように…」
○ 2003年11月21日「…蒼生の福を増せ」
○ 2003年10月21日「ありがたや … (同行二人御詠歌)」
○ 2003年9月21日「観自在菩薩 深い般若波羅蜜多を行ずるの時 … 」
○ 2003年8月21日「それ仏法 遙かにあらず … 」