仏 教 と現 代

本当に恐ろしいのはウイルスか

 新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっています。死者はすでに7000人を超え、WHO(世界保健機関)は「パンデミック」を宣言しました。日本でも感染者が一気に増え、報道はコロナ一色。世の中は混乱しながらも一気に「自粛モード」となりました。

 花粉症の私は、3月に入ったあたりからマスクが底をつき始め、同じマスクを3〜4日使いまわしながらほぼ毎日ドラッグストアでマスクを探すことを余儀なくされました。ネット上ではマスクが異常な高額で売買されたり、店頭からはトイレットペーパーがなくなったりする事態を目の当たりにしながら、「本当に恐ろしいのはウイルスよりも人の心ではないか」という思いがむくむくと沸き起こります。

 今からおよそ1200年前の弘仁九年(818年)も、国内に飢饉と疫病が蔓延しました。「天下大疫」、つまりパンデミックとなり、人々は不安と混乱に陥りました。ときの嵯峨天皇は弘法大師の勧めに応じて紺紙金泥、一字三礼の般若心経写経を行い、平穏を取り戻したといわれています。

 写経でウイルスが退散するはずがないだろう、と思うかもしれません。そうかもしれませんが、本当に恐ろしいのは人の心なのだと思えば、また違った見え方になるでしょう。弘法大師はまず嵯峨天皇の心を落ち着かせることに注力したのではないでしょうか。為政者が混乱すれば世の中はもっと混乱します。冷静に対処するリーダーを見れば、役人たちも冷静さを失わずに済むかもしれません。

 最近こんな話を聞きました。なぜパンデミックはときどき起こり、そして収まるのか? 新型インフルエンザ、SARS、MARS、古くはコレラやペストなどが不定期にはやり、多くの人が命を失ったのち、収束する。その理由の一つは、ウイルスという存在の性質にあるといいます。ウイルスはそれ自体では子孫を残せない非生物で、宿主となる生物の細胞に取り入って増殖します。それゆえ宿主となる生物が死んでしまっては、ウイルスにとっても生存の道が絶たれることになります。生まれたばかりの新型ウイルスは、まだ力加減が分かっていないため宿主を殺してしまうこともあるのですが、増殖を繰り返すうちにやがて進化して、宿主との共存が可能になるものが出てくるというのです。

 つまり、ウイルスは宿主と共存することを宿命づけられている、ということなのです。私たち人類は、ときにウイルスに脅かされながらも、どこかで折り合いをつけて共存していくしかないということかもしれません。そう考えると、ますます「本当に恐ろしいのはウイルスなのか?」という気持ちが強まってきます。

 ある地域ではマスク配布の対象から朝鮮学校が除外されたと聞きました。後に配布されたそうですが、これを機に中国や韓国への差別を煽ろうとする動きは、関東大震災のときの朝鮮人虐殺を思い出させます。また今回、政府が唐突に小中高校の休校を宣言した際、専門家の知見や教育機関の意見はほとんど顧みられなかったといいます。ついにはコロナ対策と称して緊急事態を宣言できる法律までできてしまいました。本当に恐ろしいのはウイルスではなく人の心ではないか。そんな思いをますます強くする昨今です。

2020年3月21日 坂田光永





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○ 2019年11月21日「靖国神社に参拝する」
○ 2019年10月21日「仁和寺で祈る」
○ 2019年9月21日「佛光寺の秘密」
○ 2019年8月21日「御代替わり儀礼の正体」
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○ 2019年6月21日「即位灌頂」
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○ 2018年6月21日「葬式仏教正当論」
○ 2018年5月21日「相撲と女人禁制」
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○ 2005年3月21日「ライブドアとフジテレビと仏教思想」
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○ 2003年11月21日「…蒼生の福を増せ」
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