仏 教 と現 代

3密vs三密

 「流行語大賞は『3密』」。…やっぱりそうなりましたか。2020年の世相をあらわす言葉として、大方の予想通り新型コロナ関連の用語が上位を占め、その中でも「3密」が大賞をとりました。なんとも忸怩たる思いです。小池百合子都知事のにこやかな受賞コメントを、「あなたの言葉じゃないでしょ!」と苦々しく眺めるしかありません。

 というのは、「三密」という言葉は私たち真言密教における最重要キーワードの一つなのです。一般の仏教では煩悩をもたらす行為のもととされる身・口・意(しん・く・い)の「三業」を、密教的に置き換えたものが身密・口密・意密の「三密」です。手に印を結び(身密)、口に真言を唱え(口密)、心を三摩地に住する(意密)ことによって、私たち凡人の行為が究極的には仏のはたらきと同等になるというのが、密教の考え方なのです。

 一般の仏教では、私たち凡人の身体や言葉や心というのは「悪さをするもの」としてとらえられます。何か行動すれば問題を起こし、言葉を発せば人を傷つけ、心には常に邪念が渦巻いている。これに対し、仏の身体や言葉や心はすべて慈悲に裏付けられていて、衆生を救うためのはたらきとなります。

 一方、密教では、そんな私たちの煩悩まみれな身体や言葉や心にも、仏の素質が備わっていると考えます。そこで私たちは、手に仏の性質を表現した印を結び、口に仏の言葉である真言を唱え、心を穏やかな禅定の状態に置くことで、私たちがもともと持っている仏の素質を引き出そうとするのです。言ってみれば三密は、密教の修行の最も基本的な形だといえるでしょう。

 とはいえ本当に私たちは仏の素質を備えているのか… この一年を振り返ってみても、ウイルスによって人間の醜さが引き出されたと思える場面ばかり目につきました。県外ナンバーや外国人を過剰に排除しようとする「自粛警察」がいたり、逆に「コロナは風邪だ」と主張してマスク着用を求める飲食店を攻撃するSNSユーザーがいたり、医療機関や専門家は移動を控えるように言いながら政府はGoToキャンペーンで移動を呼び掛けたり。世の中わけが分からないことばかりで、私たちの身・口・意は悪さばかりしているという気になってしまいます。

 かたや、そんな中でも希望はあります。遠くに住む親しい人の無事を願って祈る人。医療や福祉で働く人々に励ましの言葉をかける人。縁のあるお店を支援する人。正しい情報を発信しようと努める専門家やジャーナリストやSNSユーザー。厳しい局面で判断を迫られながら誠実に対処しようとする各国のリーダーたち。コロナ禍を私たちの暮らしや社会を見直すきっかけとして、新たな時代を切り開こうとする人々。私はそんな人々に、「三密」の片鱗を見る思いです。

 新型コロナウイルスはまだまだ終息しそうにありません。100年前のスペイン風邪は2年以上かかっています。もうしばらく厳しい状況は続きますが、その間「3密」を避けつつ、「三密」を実践していきましょう。

2020年12月21日 坂田光永





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○ 2003年11月21日「…蒼生の福を増せ」
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○ 2003年8月21日「それ仏法 遙かにあらず … 」



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