仏 教 と現 代
トランプ再臨
アメリカ大統領に返り咲いて以降、トランプ氏の暴走が止まりません。気候変動対策を進めるためのパリ条約からの脱退、反「多様性」政策の推進などはまぁ想定内としても、行政が機能不全に陥るほどの国家公務員の大量解雇、友好国へのやみくもな「関税」攻撃、イスラエルの侵攻が続くガザ地区をアメリカが「所有」するとの発言、果てはウクライナのゼレンスキー大統領を公開の場で罵倒するなど、常軌を逸した言動が繰り広げられています。
とりわけ驚いたのが、連邦政府内の「反キリスト教」を根絶するために新部署「信仰局」を司法省内に設置すると言い出したことです。トランプ氏いわく、バイデン前大統領はキリスト教を狙い撃ちにするために権力を行使したとのこと。いったい何を指しているのか分かりませんが、自分の気に食わない施策や人物を「反キリスト教」という名目で取り締まるつもりなのかもしれません。世界で初めて憲法に「政教分離」を定めたアメリカで、大統領が自らその誇りをかなぐり捨てています。
トランプ政権誕生の背景にアメリカのキリスト教保守派、いわゆる「福音派」の存在があることはよく知られています。福音派については過去にも言及しました(宗教が動かアメリカ大統領選挙)。聖書を一言一句「真実」と考え、LGBTQや進化論を否定する彼らの信仰が、今回の大統領選挙でもトランプ氏を後押ししました。
二度の離婚歴があり、一見して敬虔なキリスト教徒とは思えないトランプ氏を福音派が支持していることに意外な印象も受けますが、もともとプロテスタントのカルヴァン派には「成功者には神の加護があった」と考える傾向があり、不動産ビジネスに成功したトランプ氏も「きっと神様に気に入られているのだ」と受け止められているようです。加えてトランプ陣営も熱心に福音派を取り込む努力を重ねてきました。大統領1期目には宗教団体の選挙活動の規制緩和や、対外支援金による人工妊娠中絶事業の停止など、彼らが喜ぶ政策を着々と実現しています。
特にエルサレムを「イスラエルの首都」とし、アメリカ大使館をエルサレムに移転した「功績」は大きいといえます。福音派は「エルサレムは神がユダヤ人に与えた地」と見なし、「世界が終末を迎えるときエルサレムにキリストが再臨する」と考えているので、彼の地をイスラム教徒に明け渡すことは許されません。そのため、「トランプ再臨」となれば親イスラエル外交となることは十分予想できました。巷では「トランプ大統領が誕生すればガザ問題は解決する」などと呑気な憶測が見られましたが、実際は「パレスチナ人など存在しない」と語ったこともある福音派牧師をイスラエル大使に任命したばかりか、「パレスチナ人をガザから追い出す」という、ナチスの民族浄化のごとき構想を打ち出したではありませんか。これぞまさに「パレスチナ問題の最終的解決」ということかと、私は背筋が凍りました。
かたや、ロシア正教会と蜜月で「反同性愛」を推進するプーチン大統領とはどうやら馬が合うらしく、ウクライナの土地と資源を巡って「現代のポーランド分割」を話し合ているようです。こういった政治リーダーの出現は世界的現象のようで、日本でも東京や兵庫で似たような現象が起きています。その陰にはイーロン・マスク氏のような超大富豪たちの「躍動」があるのでしょう。
第二次世界大戦以降、曲がりなりにも平和と民主主義を希求し、繊細に積み上げてきた国際的な法秩序が、音を立てて崩れています。「法の支配」が否定された先に見えるのは「力による支配」がむき出しの風景です。世界はこのまま「終末」へと突き進むのでしょうか。
2025年3月21日 坂田光永
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