仏 教 と現 代

真の中道は「事実ファースト」

 エディ・マーフィ主演『ホワイトハウス狂騒曲』は、やり手の詐欺師が「金儲けならビバリーヒルズよりホワイトハウスだぜ」と気付き、政治家になるコメディ映画です。得意の口八丁で見事に当選した主人公は、最も金が稼げるという理由で電力産業委員会に所属したものの、そこで… とまぁ、あとは実際に見てもらったらいいのですが、この映画を見た若い頃の私は「結局、政治家なんて詐欺師みたいなもんか」と思ったのでした。

 今ではもちろん、そんな政治家ばかりではないということは分かっています。とはいえ政治家と詐欺師にとっての必要とされる特性は似ているというか、詐欺師と選挙との相性がいいのは確かでしょう。実際に嘘でチャンスをつかんだりピンチを乗り切ったりしてのし上がった政治家は大勢いるはずです。

 例えば、先日衆院選で大勝した高市早苗首相はどうでしょうか? かつて総務官僚が書いた文章を「捏造」と断言し、「そうでなければ議員辞職する」と言い切ったのに、その後も辞めなかったということがありました。また安倍元首相の国葬反対のSNSは「八割が大陸から」と講演で口走り、しらを切り通したこともあります。古くは「元米連邦議会立法調査官」というプロフィールでテレビに出演していたことも。現在の英語力からは想像もつかない肩書きです。

 詐欺師とは言わないまでも、ちょっとハッタリが過剰ではないかという気はします。選挙公約に掲げていた「消費税減税」や、演説で強調していた「外為特会はホクホク」「日本の領海から採掘するレアアースで自給可能」「食料自給率100%をめざす」などの話も、そのまま受け取っていいものかどうか。専門家からはあれこれ突っ込まれていましたが、それでも有権者からは「希望を与えてくれた」「前向きなことを言ってくれるから好き」という評価につながっているようではありますが。

 一方、そんな首相と対峙すべく結成された「中道改革連合」は、衆院選で惨敗し、厳しい批判にさらされています。

 ところで「中道」という地味なネーミングは、公明側の強いこだわりだったようです。政治用語としては「右にも左にも偏らない」といった意味だと思いますが、公明支持者(とその大半の創価学会員)にとっては仏教用語としての意味合いも大きいでしょう。

 仏教における「中道」とは単に両端を足して2で割った中間点のことではありません。執着(思い込み、偏った見方・考え方)から離れ、「真理」に従い、とらわれのない心で歩む道のこと。「真理」というと怪しげですが、これは「事実」と置き換えてよいでしょう。それを踏まえてもう少し政治に寄せて言うならば、信念や主義主張より「事実」を優先する立場が「中道」ということになります(公明党がそうだったかどうかは別問題ですが)。

 数学を研究する私の友人に、あるとき「最も数学的な態度って何?」と尋ねたところ、彼は「事実が変われば自分の意見を変えられること」と即答しました。持論に固執せず事実を前に謙虚であること。これはまさに仏教的態度、中道のことでもあります。信念や主義主張が無意味だと言いたいわけではありません。そこにこだわるあまり事実認識が歪むことを恐れよ、ということです。

 なぜこれほどまでに詐欺師のような政治家が次々現れるのか。それは民主主義の担い手である有権者が、客観的事実よりも「気持ちの良い物語」を好むからに他なりません。そこに嘘や陰謀論がはやる土壌があります。

 ブッダは「真理を知れば平安が訪れる」と説きました。平安(平和)の敵は「執着」です。「自国は他国より優れている」という内集団バイアス。「これだけ資源を投じたのだから止められない」という埋没費用バイアス。都合のいい情報だけ信じて否定的な情報を退ける確証バイアス。そうしたバイアス(執着)が、かつて日本を泥沼の戦争へと引きずり込みました。人間にはそんな弱さがあり、そこに詐欺の付け入る隙があります。それは平和を希求する人々こそ強く自戒すべきことなのです。

2026年2月21日 坂田光永





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○ 2013年3月21日「三十三間堂の壮観」
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○ 2013年1月21日「増蒼生福」
○ 2013年1月1日「我等懺悔す無始よりこのかた」
○ 2012年10月21「三国伝来」
○ 2012年8月23日「いじめを止めようとしている君へ」
○ 2012年6月21日「比叡山の静謐」
○ 2012年5月21日「時間を守る」
○ 2012年4月21日「五大に皆響きあり」
○ 2012年3月21日「永劫に残る核のごみ ~ドイツツアーに参加して~」
○ 2012年2月21日「from 3.11 私たちは変わったか」
○ 2012年1月21日「汚い清盛、高野山から厳島へ」
○ 2011年12月22日「人は土から離れては生きていけないのよ」
○ 2011年11月21日「鞆の浦の古さと新しさ」
○ 2011年10月21日「永平寺の懺悔と「もんじゅ」」
○ 2011年9月21日「日東第一形勝300年に学ぶ」
○ 2011年8月28日「脱原発・脱石油を誓う2011年の9.11」
○ 2011年7月28日「フクシマからヒロシマへ、ヒロシマから世界へ」
○ 2011年6月21日「脱原発の、その先へ」
○ 2011年5月21日「原発のうてもえーじゃない」
○ 2011年4月21日「『3分の1は原子力』は本当か?」
○ 2011年3月21日「千年前の聖たちのように」
○ 2011年2月21日「この不確実で不完全な世界」
○ 2011年1月21日「小さなタイガーマスクが増えること」
○ 2011年1月1日「平和の灯を高野山へ」
○ 2010年12月21日「台湾ダーランド」
○ 2010年11月21日「千人の垢を流して見えるもの」
○ 2010年10月21日「いのちの多様性」
○ 2010年8月21日「奈良、歴史『再発見』」
○ 2010年7月21日「身延山と日蓮」
○ 2010年6月21日「ボクも坊さん。」
○ 2010年5月21日「仏法は汝らの内にあり」
○ 2010年4月23日「葬式は要らないか」
○ 2010年3月21日「再びオウム事件と仏教について」
○ 2010年2月21日「立松和平さんの祈り」
○ 2010年1月1日「排他的、独善的な仏教にならないために」
○ 2009年12月21日「『JIN』のようにはいかないもので」
○ 2009年11月21日「排他的?独善的!」
○ 2009年10月21日「アフガンに緑の大地を」
○ 2009年9月23日「笑いとため息」
○ 2009年7月21日「臓器移植と『いのち』の定義 続編」
○ 2009年6月21日「臓器移植と『いのち』の定義」
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○ 2006年4月21日「最澄と空海」
○ 2005年9月23日「お彼岸といえば…」
○ 2005年7月21日「お盆といえば…」
○ 2005年4月21日「ねがはくは花の下にて春死なん…」
○ 2005年3月21日「ライブドアとフジテレビと仏教思想」
○ 2005年1月21日「…車をひく(牛)の足跡に車輪がついて行くように」
○ 2004年8月21日「…私は、知らないから、そのとおりにまた、知らないと思っている」
○ 2004年7月21日「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい。」
○ 2004年6月23日「文殊の利剣は諸戯(しょけ)を絶つ」
○ 2004年5月21日「世界に一つだけの花一人一人違う種を持つ…」(SMAP『世界に一つだけの花』)
○ 2004年4月21日「抱いたはずが突き飛ばして…」(ミスターチルドレン『掌』)
○ 2004年3月23日「縁起を見る者は、法を見る。法を見る者は、縁起を見る」
○ 2004年2月21日「…犀(さい)の角のようにただ独り歩め」
○ 2004年1月21日「現代の世に「釈風」を吹かせたい ―心の相談員養成講習会を受講して―」
○ 2003年12月21日「あたかも、母が己が独り子を命を賭けて護るように…」
○ 2003年11月21日「…蒼生の福を増せ」
○ 2003年10月21日「ありがたや … (同行二人御詠歌)」
○ 2003年9月21日「観自在菩薩 深い般若波羅蜜多を行ずるの時 … 」
○ 2003年8月21日「それ仏法 遙かにあらず … 」



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